風に恋して

中庭のプロポーズ

レオはリアを探して中庭へとやってきていた。カタリナが言っていた通り、リアはそこにいたけれど、今日は本を持っていない。噴水の前に立って、じっと湧き出る水を見つめている。

「リア?」

レオが近づいて声をかけるとゆっくりと振り返り、そしてまたゆっくりと視線を噴水へ戻した。

「あそこに……お父さんとお母さんが、いて……」

リアが呟くように言う。それは、レオに対してというよりも自分の記憶を辿るような、独り言のように感じられた。

「お父さんが、私を抱いていて……6歳、くらいかな」

レオは黙ってリアの言葉を聞いていた。研究室の本棚に飾ってある写真のことを言っているのだと、すぐにわかったから。

「……ここで、何か……大切なこと、が……」
「リア?」

リアの声が震え出し、レオが視線を下げるとその頬に涙が伝っていた。レオはリアの身体を自分の方に向け、親指で涙を拭ってやった。リアの翡翠色の瞳がレオを見上げている。

「そんな顔……しないで」
「え……?」

突然のリアの言葉に、レオは目を見開く。

それは、レオがここで……レオにすべてを委ねることを怖がっていたリアにプロポーズしたときの言葉だったから。
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