泣き顔の白猫

よどみ



「久しぶりですね」

静かな声。
自分に話しかけられているのだとは一瞬気付かなくて、目を丸くして、相手を見た。

「……そうですっけ? 一週間くらいですよ」
「最近、三日と開けずに来てくださってたので」

マスターの目元で、きゅっと笑い皺が寄る。

「ま、仕方がないですね。例の二十三歳の不審死、五人目も出ましたし」
「そうなんですよねぇ……あ、お客さん呼んでますよ」

カウンターの方で手を上げた人がいるのに気付いて、加原は言った。
いつも加原が座る席の、隣に座った客だ。

一週間ぶりの『りんご』、名波と向かい合ったカウンターに座る度胸は、加原にはなかった。
度胸もないのに、どうも気になって来てしまったのだ。


わざわざテーブル席まで加原に話しかけに来たマスターに何かを見透かされているような気がして、落ち着かない。
一週間ぶりに頼んだカプチーノを一口だけ飲んで、ぼんやりとミルクの泡を見つめる。

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