カプチーノ·カシス

◇吉沢 俊樹side◇



「――開発のとき、焙煎豆が手元になければ生豆を自家焙煎することもあるんです。今、実際にやって見せますから豆の色の変化と音に注意して見ていて下さい」


東京にあるうちの開発室より少し広い、大阪工場のコーヒー開発室。

そこで自家焙煎のやり方を説明する武内さんの手元を、大阪の開発チームの面々がそろって覗き込む。

手網に生豆を入れ、ふたをして中火で煎る。

楕円を描くように手網を振る武内さんの瞳は真剣そのもの。

その姿だけ見ていれば、今回の出張には何の問題もないように思える。


「ほら、コンロにかすみたいな物が落ち始めたでしょう? 豆の薄皮です。これが出なくなった頃がライトロースト。段々香ばしくなってきましたね」


教え方、間の取り方なんかにも感心させられる。

ここのチームの皆がメモを取りやすいよう、彼女なりに考えているんだろう。

やはり石原でなく武内さんを連れてきて正解だったと思う。

ただしそれは、仕事のことだけを考えれば、なのだけど……


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