FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
Whereabouts - 行方 -
――もうすっかり慣れた雑踏に、クレドは擦れ違う人をかわしながら道を歩く。
風に靡[ナビ]く白銀の髪の毛に、ポケットに手を突っ込んで歩く姿はすっかり大人に成長していた。
キリエとクレドが離れ離れになってからもう12年が経ち、彼は今年の冬で19歳となる。
「クレド~!こっちよ、こっち」
「悪い。待たせた」
「大丈夫。アタシも今ちょうど着いた所」
胸元が広く開いた丈の短いトップスに、短いダメージ加工のスカートを履いた女が馴れ馴れしくクレドの腕に、自分の腕を絡ませる。
二人はそのまままた歩き出した。
道行く人は大抵が刺青を彫った人相の悪い輩か、今にも死にそうな痩せ細った人間ばかりだ。
土で出来た道の両端にはいろんな屋台が出ていて、胡散臭そうな主が威勢のいい声を張り上げて宣伝している。
その景色はまるで荒れ地に無理矢理店を置いただけの、酷くみすぼらしいものだ。
「最近働き詰めねえー。体大丈夫?」
「ああ……別に何ともない」
「病気とか持ってないでしょうね~」
「ちゃんと月2で検査してるよ」
女は整った横顔を見ながら、ニコリと微笑む。
「そう。なら良いわ」
女は更にクレド腕に密着すると、豊満な胸を押し付けて機嫌良さそうに鼻歌を歌い始めた。
二人が入っていったのは、クレドと一緒なら無料で入れるホテルだった。
恋人のように腕を組んで部屋の鍵をもらうと、クレド達は慣れたように部屋に入っていった。
「今日はいくらだっけ?」
「ふふふっ、5万」
綺麗な細長い指5本を開き、下から上目で見詰める彼女に、クレドは頷いた。
そして赤く膨らんだ唇に自らの唇を押し付けた。
――ここは貧困地区【フォレスト】。
普通の街で生活を送ることが困難になった人がぞろぞろとやってくる無法地帯。
比較的ホームレスが多く、自宅を持つクレドはフォレストでは裕福な方である。
15歳であのガーネットを出たクレドは、この地へやってきてある人に拾われた。
そこでの仕事といえば、屋台の個人営業店か首都と繋がっている裏営業か、水商売の類だけである。
個人営業店を開けるような人柄でもないし、首都との繋がりもないクレドは、女達に色を売る男娼[ダンショウ]になった。
【アリエル】という男娼館の女性オーナーに拾われたのがきっかけである。
資金調達が第一の目的だった彼は、商売方法なんてどうでも良くて、とりあえず給料の良い男娼を始めた。
この女もクレドの上玉常連客の一人で、やたらと彼ばかりを指名する。
幼少の頃からは想像もつかない程逞しく育った彼は、フォレストではかなり有名だ。
予想以上に整った成長を遂げた彼は、アリエルのナンバーワン男娼として名を広げた。
フォレストには男娼や娼婦など腐る程いる。
その中でもクレドはトップクラスの指名料を巻き上げている。
最初は彼だって男娼としての自分に戸惑い、悩み、厭った。
こんなことをしても良いのだろうか、キリエとの約束を破ったことにならないだろうか。
純情な少年は、毎日罪悪感をひしひしと全身で感じていた。
ガーネットで自分を育ててくれた園長先生達に、キリエに、今まで生きた自分に。
しかし、それも全て、キリエに会う為だった。
クレドはガーネットを出てからすぐにフランツ家にコンタクトを取った。
電話で出たのは使用人であったが、それでも出てくれただけ充分だった。
今すぐ会えなくとしても、せめて声が聞きたい。
およそ8年、全く会わなかったのだ。
しかし使用人から返ってきた言葉はあまりにも理解しがたく、驚愕するものであった。
『フランツ家にキリエという養女はおりません――』
耳を疑った。
何度も同じ質問を繰り返しても、帰ってくる答えは同じであった。
クレドはフランツ家がキリエを放り出したのかと直感した。
彼女の居場所がわからないなら、調べなければならない。
それに加えて、彼女に会えるまで死ぬわけにはいかないから自分一人でも暮らしていける資金も必要だった。
風に靡[ナビ]く白銀の髪の毛に、ポケットに手を突っ込んで歩く姿はすっかり大人に成長していた。
キリエとクレドが離れ離れになってからもう12年が経ち、彼は今年の冬で19歳となる。
「クレド~!こっちよ、こっち」
「悪い。待たせた」
「大丈夫。アタシも今ちょうど着いた所」
胸元が広く開いた丈の短いトップスに、短いダメージ加工のスカートを履いた女が馴れ馴れしくクレドの腕に、自分の腕を絡ませる。
二人はそのまままた歩き出した。
道行く人は大抵が刺青を彫った人相の悪い輩か、今にも死にそうな痩せ細った人間ばかりだ。
土で出来た道の両端にはいろんな屋台が出ていて、胡散臭そうな主が威勢のいい声を張り上げて宣伝している。
その景色はまるで荒れ地に無理矢理店を置いただけの、酷くみすぼらしいものだ。
「最近働き詰めねえー。体大丈夫?」
「ああ……別に何ともない」
「病気とか持ってないでしょうね~」
「ちゃんと月2で検査してるよ」
女は整った横顔を見ながら、ニコリと微笑む。
「そう。なら良いわ」
女は更にクレド腕に密着すると、豊満な胸を押し付けて機嫌良さそうに鼻歌を歌い始めた。
二人が入っていったのは、クレドと一緒なら無料で入れるホテルだった。
恋人のように腕を組んで部屋の鍵をもらうと、クレド達は慣れたように部屋に入っていった。
「今日はいくらだっけ?」
「ふふふっ、5万」
綺麗な細長い指5本を開き、下から上目で見詰める彼女に、クレドは頷いた。
そして赤く膨らんだ唇に自らの唇を押し付けた。
――ここは貧困地区【フォレスト】。
普通の街で生活を送ることが困難になった人がぞろぞろとやってくる無法地帯。
比較的ホームレスが多く、自宅を持つクレドはフォレストでは裕福な方である。
15歳であのガーネットを出たクレドは、この地へやってきてある人に拾われた。
そこでの仕事といえば、屋台の個人営業店か首都と繋がっている裏営業か、水商売の類だけである。
個人営業店を開けるような人柄でもないし、首都との繋がりもないクレドは、女達に色を売る男娼[ダンショウ]になった。
【アリエル】という男娼館の女性オーナーに拾われたのがきっかけである。
資金調達が第一の目的だった彼は、商売方法なんてどうでも良くて、とりあえず給料の良い男娼を始めた。
この女もクレドの上玉常連客の一人で、やたらと彼ばかりを指名する。
幼少の頃からは想像もつかない程逞しく育った彼は、フォレストではかなり有名だ。
予想以上に整った成長を遂げた彼は、アリエルのナンバーワン男娼として名を広げた。
フォレストには男娼や娼婦など腐る程いる。
その中でもクレドはトップクラスの指名料を巻き上げている。
最初は彼だって男娼としての自分に戸惑い、悩み、厭った。
こんなことをしても良いのだろうか、キリエとの約束を破ったことにならないだろうか。
純情な少年は、毎日罪悪感をひしひしと全身で感じていた。
ガーネットで自分を育ててくれた園長先生達に、キリエに、今まで生きた自分に。
しかし、それも全て、キリエに会う為だった。
クレドはガーネットを出てからすぐにフランツ家にコンタクトを取った。
電話で出たのは使用人であったが、それでも出てくれただけ充分だった。
今すぐ会えなくとしても、せめて声が聞きたい。
およそ8年、全く会わなかったのだ。
しかし使用人から返ってきた言葉はあまりにも理解しがたく、驚愕するものであった。
『フランツ家にキリエという養女はおりません――』
耳を疑った。
何度も同じ質問を繰り返しても、帰ってくる答えは同じであった。
クレドはフランツ家がキリエを放り出したのかと直感した。
彼女の居場所がわからないなら、調べなければならない。
それに加えて、彼女に会えるまで死ぬわけにはいかないから自分一人でも暮らしていける資金も必要だった。