FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
Pulled trigger - 引き鉄 -
トーマのスピカから自宅へ帰っているクレドとキリエは、相変わらず手を繋いでいる。
それを驚いたように遠くから見る輩達は2人を交互に見る。
彼にとってはそんな煩わしい視線さえも優越感に変わる。
しかしその一方では、自分への敵意が彼女へ向かってしまったらと、もしものことが不安になるのである。
クレドへ敵意を抱く者など、恐らく後を絶たないだろう。
それ程彼はこのフォレストで良くも悪くも有名なのだ。
クレドを嗅ぎ回る者を潰す為、トーマによく情報を提供してもらう。もちろん有料で。
『厄介な人物』のみの情報を買い、『雑魚』は放っておくのがクレドのやり方。
最近躍起になってクレドを追っているのが、ある有名な盗賊団である。
特に恨みを持たれるような事もしていないが、彼等にとってクレドは相当気に入らない人物らしい。
キリエには恐怖心も不快感も持って欲しくない。
少女の為ならば、青年は東奔西走も厭わない。
同時刻、路地。
褐色の肌と金色の瞳を持つシャルレは、まるで黒猫のように浮浪していた。
ちょうど仕事帰りだったのだ。
いつものように仕事相手とホテルに入っていったのは良かった。
いつものようにそれから客に風呂を勧め、背中を流してあげたりなんてして、いつもは言わないような媚びた言葉の一つや二つ言うのだ。
それが今日は違った。
部屋に入りシャルレが客に背を向けている隙に、懐からナイフを出そうとしたのが運よく視界に入った。
振り返ると客はパッとナイフをしまい、シャルレに気付かれていないと勘違いしたらしい。
いや、勘違いしたかっただけかもしれない。
シャルレの疑心を煽ってしまった客はすぐさま彼女によって毒殺された。
まるで愛する人にする口付けによって、猛毒を飲まされたのだ。
シャルレは財布を盗むと死体を放置したまま、現在に至る。
そのスレンダーな体にタイトな軽装の間には、数多くの薬物が仕込まれている。
クレドのように戦闘能力もパンドラも持たない彼女なりの善処である。
「……またトーマの所で材料買わなきゃ」
薬物、主に毒薬の調合が得意な彼女もまたスピカの常連である。
シャルレも普段は母性が強いが、自分の身を守る為ならば容赦はせずに始末する。
それがトーマに習った教訓である。
クレドとシャルレにこのフォレストで生き残るための術を説いたのは、トーマだ。
3人の中では一番長くフォレストに住み、瞬く間に“フォレストの貴族”にのし上がった彼は他者よりもこのサバイバル生活に注意深く生き残ることだけを考えてきた。
“自分以外の全員を敵だと思え”
それがトーマの信条である。
『他人に感情を持つのは、自分が誰よりも上に立った時だけだ』
人間不信とも取れる彼の信条をクレドとシャルレは少なからず影響を受けて、このフォレストで育った。
クレドとシャルレの現在の人格形成には、トーマが大きく関わっていると言っても過言ではないのだ。
シャルレは少し古いことを思い出しながら、また夜道をふらふらと歩いた。
遠くから聞こえてくる喧騒はいつからか普通になり、道端に野垂れ死ぬ生き物は日常となった。
彼等にとっての非日常とは、“日常”そのものである。
そしてその時、向こう側からバタバタと走ってきた2人組が、シャルレの横を通り過ぎた。
一瞬だけだが、髪の青い少年の顔がチラリと見えた。
シャルレはウンザリと顔をしかめ、走り去っていく背中をほんの少し振り返る。
その2人組は青い鷹の刺青がシンボルの【トルガー盗賊団】の団員だった。
最近やたらとクレドを潰したがっていると耳に留まる。
そういえばクレドが賊に強い反感を買ってしまったのは、すべて自分の所為なのだ。そう彼女は考えた。
それを驚いたように遠くから見る輩達は2人を交互に見る。
彼にとってはそんな煩わしい視線さえも優越感に変わる。
しかしその一方では、自分への敵意が彼女へ向かってしまったらと、もしものことが不安になるのである。
クレドへ敵意を抱く者など、恐らく後を絶たないだろう。
それ程彼はこのフォレストで良くも悪くも有名なのだ。
クレドを嗅ぎ回る者を潰す為、トーマによく情報を提供してもらう。もちろん有料で。
『厄介な人物』のみの情報を買い、『雑魚』は放っておくのがクレドのやり方。
最近躍起になってクレドを追っているのが、ある有名な盗賊団である。
特に恨みを持たれるような事もしていないが、彼等にとってクレドは相当気に入らない人物らしい。
キリエには恐怖心も不快感も持って欲しくない。
少女の為ならば、青年は東奔西走も厭わない。
同時刻、路地。
褐色の肌と金色の瞳を持つシャルレは、まるで黒猫のように浮浪していた。
ちょうど仕事帰りだったのだ。
いつものように仕事相手とホテルに入っていったのは良かった。
いつものようにそれから客に風呂を勧め、背中を流してあげたりなんてして、いつもは言わないような媚びた言葉の一つや二つ言うのだ。
それが今日は違った。
部屋に入りシャルレが客に背を向けている隙に、懐からナイフを出そうとしたのが運よく視界に入った。
振り返ると客はパッとナイフをしまい、シャルレに気付かれていないと勘違いしたらしい。
いや、勘違いしたかっただけかもしれない。
シャルレの疑心を煽ってしまった客はすぐさま彼女によって毒殺された。
まるで愛する人にする口付けによって、猛毒を飲まされたのだ。
シャルレは財布を盗むと死体を放置したまま、現在に至る。
そのスレンダーな体にタイトな軽装の間には、数多くの薬物が仕込まれている。
クレドのように戦闘能力もパンドラも持たない彼女なりの善処である。
「……またトーマの所で材料買わなきゃ」
薬物、主に毒薬の調合が得意な彼女もまたスピカの常連である。
シャルレも普段は母性が強いが、自分の身を守る為ならば容赦はせずに始末する。
それがトーマに習った教訓である。
クレドとシャルレにこのフォレストで生き残るための術を説いたのは、トーマだ。
3人の中では一番長くフォレストに住み、瞬く間に“フォレストの貴族”にのし上がった彼は他者よりもこのサバイバル生活に注意深く生き残ることだけを考えてきた。
“自分以外の全員を敵だと思え”
それがトーマの信条である。
『他人に感情を持つのは、自分が誰よりも上に立った時だけだ』
人間不信とも取れる彼の信条をクレドとシャルレは少なからず影響を受けて、このフォレストで育った。
クレドとシャルレの現在の人格形成には、トーマが大きく関わっていると言っても過言ではないのだ。
シャルレは少し古いことを思い出しながら、また夜道をふらふらと歩いた。
遠くから聞こえてくる喧騒はいつからか普通になり、道端に野垂れ死ぬ生き物は日常となった。
彼等にとっての非日常とは、“日常”そのものである。
そしてその時、向こう側からバタバタと走ってきた2人組が、シャルレの横を通り過ぎた。
一瞬だけだが、髪の青い少年の顔がチラリと見えた。
シャルレはウンザリと顔をしかめ、走り去っていく背中をほんの少し振り返る。
その2人組は青い鷹の刺青がシンボルの【トルガー盗賊団】の団員だった。
最近やたらとクレドを潰したがっていると耳に留まる。
そういえばクレドが賊に強い反感を買ってしまったのは、すべて自分の所為なのだ。そう彼女は考えた。