冷たいアナタの愛し方

恐ろしい夜

オリビアは退屈な日常に戻った。

旅人2人組のことを最初はいつまでも忘れないと思っていたが、日々が流れていくうちに記憶は薄くなり、2人がどんな顔をしていたかもぼんやりと曖昧になっていく。


――そして7年もの歳月が流れ、その間にガレリア王国に異変が起きたことは各国に広まっていた。


「アイザック王が暗殺されたらしい。現在は兄弟で骨肉の争いが起こっているとか。ガレリアから逃れてきた難民がここにも数多く助けを求めて来ている。もちろん受け入れて住居を用意しよう」


王宮内はばたばたと忙しく、扉を少しだけ開けて玉座の間をこっそり盗み見していたオリビアは、金茶のまだらな髪をなびかせて足早に自室に戻った。

ガレリア王国のことは家庭教師からしか学んでいないが、恐ろしい国だという自覚はある。

ここが中立国であるために攻め込んでこないだけで、近隣の小国はほぼすべてといっていいほどガレリアに落とされ、属国となっている。


「怖い…。ここにも攻め込んでくるのかな…」


父も兄たちも慌ただしく飛び交う情報を整理したり難民の受け入れをするための準備をしたりで、オリビアだけがひとり蚊帳の外だ。

何かできることはないかとうんうん考えていると、窓の方からワンワンと犬のような鳴き声が聞こえた。


「シルバー!どうしたの?遊んであげよっか?」


「ワンワンワンワン!」


人目を掻い潜って螺旋階段を降り、庭に出たオリビアは乗れるほどに大きく成長したシルバーの銀色の毛を撫でて顔をべろべろ舐められる。

めっと言って人差し指を鼻面に着き出すと、ごろんと横になってお腹を出したシルバーとじゃれ合いまくり、ドレスが草だらけになった。


「シルバー…なんか怖いね。ここはこのままじゃ駄目なのかな」


「ワン?」


不安な表情を隠せずにシルバーの首に抱き着いて座り込んでいたオリビアを見つけたへスターは、すっかり美しく成長して山のように縁談が舞い込むようになったオリビアに頬を緩める。


「綺麗になった。最初はどうなることやらと思ったが…」


「ですが父上…成長していくにつれ母上や父上にそっくりになりました。養女と偽るにはそろそろ限界が…」


ぱっちりとした二重に大きな瞳――

がりがりだったのに女らしく成長したが、中身は小さかった頃と変わらないままのオリビア。


このまま王宮の奥深くに仕舞い込むことができたらいいのに。
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