広い背中

イタイ女

私の頬にそっと触れる優しい手。

いつも私を守ってくれる温かな手。

その手に自分の手を重ねて、見上げた先の誠は、下唇を食いしばって悔しそうに私を睨んでいた。

「どうして?」

好きなら、私のことが欲しいなら、迷うことなんてないでしょう?

どうして、そんな苦しそうな顔をするの?

私の言葉に、誠の顔は一層ゆがむ。

ただ、そばにいて見守るだけの男。

好きな気持ちを隠そうとはしていないのに、絶対に”友達”以上に踏み込んでこない男。

惜しみなく優しい言葉をかけてくれるのに、肝心の”好き”なんて言葉は絶対に言わない。

誠の線引きは徹底していた。

いくら私が挑発しても、その線は揺るがなかった。

どうして?

私だったら、好きな人の恋人との話なんか絶対に聞きたくない。

抱きしめられたとか、告白されたとか、キスしたとか、体に触れられたとか、誠の気持ちを試すように逐一、事細かく、恋人との進捗状況を話しても、「そうか」としか言わない。

だから、本当に私のこと好きなの? って疑ったときもあった。

好きでも好きじゃなくても、私のそばに誠がいるのなら、それでいいか、なんて思っていたときもあった。

私がどんな人と付き合っていても、”一番そばにいる男友達”はいつでも誠だったから。
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