だから、恋なんて。

仕事


「乙部さん、こっち手を貸してもらっていいですか」

「オッケー」

隣のベッドの患者さんの保清をしていた後輩のナースに声をかけられる。

ICUに勤務する看護師は、基本的には日勤の担当患者さんは一人か二人くらい。

だからほとんどの処置は自分で優先順位を考えて黙々とやっていけばいいので、手を借りて二人でしなければならない処置だけを他のナースに声をかけて手伝ってもらう。

私が支える患者さんの背中を丁寧にタオルで拭いていく後輩ナースは、榊綾乃(さかき あやの)。

彼女は私よりたしか五つくらい若いはずだけど、それでももう十分ベテランの域に達してると思えるくらいしっかりしている。

この彼女と私を除いたあとのスタッフはなぜか二十代ピチピチのナースが多い。

最初に勤務希望を聞かれたときに、どんな憧れかICUを希望する子は多くて。

で、早ければ二年、遅くても五年くらいで他の病棟に異動願いを出したり、結婚退職したりで、若いナースの入れ替わりは早い。

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