最後の恋―番外編―

 託された、そのあとは?【幕間】



「面倒見てくださいって、……どうすんだよ」


一方的に言われるだけ言われて突然切れた携帯は、今はプープーと機械的な音を断続的に発っしている。
そのあと何回かリダイヤルしても、機械的的な声が丁寧に相手のご都合で申し訳ないと繰り返すだけだった。

舌打ちしたくなる衝動を堪えて、通話終了ボタンを力任せに押した。

それを隣の席で突っ伏している春陽の手元に置く。

春陽は、カウンターに突っ伏して、俺の方に顔を向けて呑気に寝ていた。

ストレートの髪が若干乱れて、酔って真っ赤になった顔にぱらぱらとかかっている。わずかに開いた口元が妖艶な雰囲気をだしているような気さえしてくる。
聞こえるはずのない吐息が聞こえてきそうなほど色っぽかった。

フツーの女がやっていたらみっともなく見える様子でさえ、春陽がやると男たちの視線を集めるものに早変わりだ。

事実、洗練された雰囲気を纏ったお嬢様に見える春陽が、この店に入ってきたときからコイツは注目の的だった。
今にも潰れそうな外観のこの居酒屋に似合わない春陽は、それでも臆することなくカウンターに座った。
最初はチラチラと視線をよこすだけだった輩が、今では遠慮することなく春陽のことを凝視している。

その視線から隠すように自分の上着を春陽の上にかぶせれば、体格差が歴然としている俺のジャケットで春陽はすっぽりと覆われてほぼ見えなくなった。


「……なんでおれがこんなこと」


思わずぼやいてしまうのも仕方ないだろう。
< 77 / 101 >

この作品をシェア

pagetop