滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

別れた代償


ーー十月下旬。


朝晩の気温が一気に下がり冷え込むようになってきた。


出勤や退社の時間になると冷たい風が吹き込み、
首にはストール、手には手袋がかかせない時期になってきた。




「じゃ、これコピーして資料作成しといて」

「わかりました」



上司に頼まれた紙束を受け取り、
自分の席へ戻る。



都内に建つ大手洋菓子メーカーに勤める私。

開発部にいながらも、
主に一般事務で書類整理なら電話番やらお茶汲みやら。



一線で活躍するような仕事を任されたことはなく、
悪い言い方をすれば頼まれた雑用をこなす腰掛けOLみたいなものだ。



「藤堂さん、これちょっと目を通してもらっていいですか〜」



甘ったれるような女性社員の声。


< 49 / 262 >

この作品をシェア

pagetop