聴かせて、天辺の青
(5) 願い叶えて

◇ それぞれの願い



小花ちゃんは彼を気に入ったらしい。
一度だけピアノを弾いてあげただけなのに、子供とっては嬉しいものなのだろう。幼稚園の先生みたいなものだと思っているのかもしれない。


子供好きに悪い人はいないという。
その言葉を、彼に当てはめてみたいと思わずにはいられない。


「小花ちゃん、楽しそうだね。海棠さんのどこが気に入ったんだろ?」

「旦那がピアノなんて縁のない人だから、きっと新鮮なんだよ。それに私と違って、教え方が優しいし」


私の問いに答えて、紗弓ちゃんは目を細める。柔らかな母親の目をして。


視線の先には、彼に手取り足取りで教えてもらいながらピアノに向かう小花ちゃんの真剣な表情。


私は小花ちゃんの隣に立つ彼の横顔を見ていた。


やっぱり、悪い人には見えない。


鍵盤を弾く彼の指は一見すると冷たそうに見えるけれど、実はとても温かくて力強い。私の手を包み込んでくれた感触を思い出したら、恥ずかしくなって直視できなくなる。


何を意識しているんだろう。
たかが話を聞いてもらっただけ。


言い聞かせるのに……


私の中に引っかかっていたものが消えて、代わりに彼の存在が確実に濃くなっていく。



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