明日、嫁に行きます!
7
「いやあ、しゃちょー大変でしたねえ」
社長室の扉を開けた途端、殺伐とした雰囲気をぶち壊す脳天気な声が室内に響き渡り、私は思い切り脱力した。
「あのご令嬢は、しゃちょーのストーカーですからねえ。過去の女とかじゃないんで、寧音ちゃん、気にしちゃダメですよー」
なんでそれを知ってるんだ、徹くん?
まるで現場を見ていたかのような物言いに、首を傾げる。
「あ、ちなみにオレ、全部見てたんでー」
――――やっぱり見てたんかい!
何故社長のピンチに、社員のアンタが助けに来ないのか。
まあ、来たとしても、鷹城さんに助けなんて必要ないかもしれないけれど。
「……鷹城さん、なんか冷たすぎだった」
思ったことをそのまま口にしたら、鷹城さんに睨まれた。
「寧音、貴女はストーカーに同情するんですか」
ストーカーされてたお前が言うか。って眼差しで問うてくるから、ウッと言葉に詰まる。
「で、でも、あの人女の人じゃない。あそこまで言わなくっても良いんじゃないかな。殺すとか女性に言うなんてあり得ないし。凄く傷ついた顔してたじゃない」
「だから貴女は甘いというのです。気がないのにあるようなそぶりを見せる方が、より残酷ではないでしょうか」
……うぅ、はい。仰る通りでございます。
二の句も継げませんゴメンナサイ。
項垂れる私に、鷹城さんの笑う気配がした。
「僕の興味は全て寧音に向いてますので、目障りなものは全て排除します」
私はそのまま回れ右をした。鷹城さんの顔、今見れない。私の顔も見られたくない。恥ずかしすぎる。絶対今、顔が赤くなってるはず。首から上が燃えてるみたいに熱いもの。
鷹城さんの興味は全て私にって……臆面もなくそんなセリフを吐くなんて。
さっき、高見沢さんと対峙していた時の言葉もそうだけど。
羞恥心とか恥じらいとか、そんなものが彼にはないのか。
煩悶する私の目が、大きな窓ガラスへと移る。
……うわっ、高ッ、怖ッ!
窓からバッと目を逸らし、また身体をずらせて違う方を見るんだけど。
今度は徹くんの爆笑する声にビクッとなった。