Rhapsody in Love 〜約束の場所〜

2 雨の中の勇姿





「……寝るなーーー!!!」



 板書をしていたみのりが、振り返りながら黒板を叩いた。


 かろうじて起きていた生徒たちは目を丸くしている。何人かの生徒は頭をもたげたが、数人の生徒は机に突っ伏したまま未だ夢の中だった。


 みのりは教壇を降り、机の間を歩いて、


「ほら、宇佐美さん。ほら、二俣くん。」


と、寝ている生徒の頭をつついて一人ずつ起こしてまわった。起こされた生徒は、憮然とした態度で椅子に座り直す。


 起きている積もりだろうが、前を向いたままの遼太郎の目が瞑れてる。

 みのりは横を過ぎる時に、遼太郎のおでこを指先で押した。両目を見開いた遼太郎の顔が妙に微笑ましくて、みのりは密かに鼻を鳴らした。


「ふぁぁ~…」


 先ほど起こされた宇佐美が、憚らず伸びをしながら大あくびをした。怪訝顔のみのりと目が合うと、悪びれずにんまりと笑う。
 この宇佐美は女子剣道部のエースだ。



 5月も終わりが近づき、6月初めの県大会の目前だ。宇佐美に限ったことではなく、部活をしている子は、高校生活最後の大舞台が迫っていて、皆真剣に部活に取り組んでいた。練習が一層厳しくなっているのだろう。授業のこのやる気のなさが、それを物語っている。




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