極上エリートの甘美な溺愛


「元気そうだな」
 

その声に、玲華ははっと我に返った。

高校時代の思い出に浸っていた自分を現実へと引き戻すと、目の前には会わなかった8年分の歳を重ねた将平が笑っていた。

「……うん。仕事が忙しいから病気をしている暇もないの」

「片桐設計だろ?あの頃言っていたとおり、設計の仕事に就いたんだな」

将平も高校時代、二人で交わした会話を思い出したんだろう、目を細めて優しく笑った。

相手の目を見ながらほんの少し照れくさそうに首をかしげる仕草に高校時代の将平を重ねて、玲華はほんの少し胸が痛んだ。

そんな痛みを隠す術を身に着けた彼女はさらりと言葉を続け、視線を微妙にそらした。

高校時代の気持ちがぶり返さないようにと、無意識に自分を守る。

「設計は設計でも、大きなビルじゃなくて家の設計だけど。でも、私には合ってるみたい」

「そっか」

「将平は、誠さんと同じ会社で働いてるのなら、希望通り亜紀自動車勤務なんだね。すごい。高校の時から、なんでも思うように生きてたもんね。人生楽しくて仕方ないでしょ」

「まあ、全てが思い通りにいったわけじゃないけどな」

将平は苦笑しながら玲華を見つめる。

将平の何か言いたげな様子に違和感を感じながらも、玲華にはそれが何かわからない。

「……ん?」

「いや、いいんだ。それよりも、玲華は雰囲気が変わったな。高校の頃より、明るくて生き生きしてる」

探るような口調に、玲華はふふっと小さく声をあげた。

それこそ、玲華がそうなりたいと願い、努力した結果だ。

「高校生の私は、卒業式の日に捨てたの。内気な自分ともさよならして、明るく、人付き合いのできる大人になろうと思って努力してきたんだ」
 

軽やかな玲華の声に、将平は戸惑ったように視線をさまよわせた。

「俺は、あの頃のおっとりとした玲華も好きだけどな。今は、仕事のできる大人の女だな」

「……嘘ばっかり」

「嘘?本当にそう思ってるけど?」

「じゃ、なんであの時、私を……ううん、いい」
 

玲華は、高校の頃の自分が好きだと思ってくれているのなら、どうしてあの時、自分を受け入れてくれなかったのかと聞きたかった。


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