狂妄のアイリス

記憶

「蛍、いいかげんに起きなさい! もう昼よ」


 毎朝響く、母の怒鳴り声。

 安らぎの夢から現実へと、首に縄をつけられて引きずり戻される感覚。

 目を開くと、母の怒った目と目が合った。


「蛍、いったい何時だと思ってるの。毎日毎日、こんな時間まで寝て!」


 朝起きてすぐにこれかと、うんざりする。

 ああ、でももう昼なのか。


「もう起きてる。着替えたいから、出て行ってよ!」


 怒鳴り返して母を部屋から追い出すと、枕元の鳴らしてない目覚し時計を手に取る。

 七時三十分を示していた。

 六時間、遅らせてある。

 だるいような体を引きずって、クローゼットの前でパジャマを脱ぐ。

 そして露わになる、腕の傷痕。

 ガリガリと、ミミズ腫れになるまで皮膚を引っ掻いた。

 カリカリと、猫に引っ掻かれたような傷をカッターナイフで何度もつけた。

 皮膚に爪を立てて、皮膚を削ぐ。

 削いだところに、また爪を立てる。

 カッターナイフで皮膚を裂いて、裂いた傷口に再びカッターナイフを突き付ける。

 それを繰り返して、常にどこかに生乾きの傷があった。
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