ファインダーの向こう

Chapter2

 深夜の道玄坂は何度か素通りしたことがあったが、ひとりで来るにはあまり気の進まない場所だった。何度もナンパやキャッチのトラップをくぐり抜け、裏口へ入ると尻込みしてしまうような淫靡なホテル街に紛れ込んだ。


(ほんとにここに逢坂さんがいるの……?)


 一抹の不安を胸に、沙樹はGPSの示す場所へ急いだ。路地へ行くと都心から切り離されたような一角に入る。沙樹がその光景に思わず息を呑んでいると―――。


「なにビビってんだよ」


「っ!?」


 突然、背後から低い声がして、沙樹は思わず飛び出そうな悲鳴を寸でのところで押しとどめた。


「逢坂さん……」


 ゆっくり振り向くと、沙樹の驚いた間抜けな顔がおかしかったのか、鼻で笑っている逢坂が立っていた。


「び、びっくりさせないでください」


「勝手に驚いたのは、お前の方だろ」


「だ、誰だっていきなり後ろから声かけられたら驚くじゃないですか」


 乱れる心拍数を整えて眦をあげる沙樹を、歯牙にもかけず逢坂がこっちだと合図する。


 逢坂の後についていくと、角を曲がる手前で逢坂が不意に足を止めた。


「ここの角を曲がって、斜め向かい側にあるホテルにもうすぐで里浦と神山が現れるはずだ」


「え……?」


 沙樹がそっと向こうを覗くと、路地裏の中、隠れるようにひっそりと佇むホテルがあった。角から少し身を出しても、使い古しの看板や粗大ゴミのような山があって死角になる。


「あそこって、ラブホですか?」


「見りゃわかるだろ」


「そ、そうですね」
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