氷の卵
第3章 勿忘草

幸せの終わる日

啓と、香織さんとの穏やかな日々。
しかし、そんな日々はある日私の目の前で密かに終わった。


お客さんの来ない夕方に、店を抜け出して夕飯の食材を買いに行った。
スーパーは、歩いて10分くらいのところにある。

買い物は素早く済ませて、私は寄りたい店があった。

一軒の小さなケーキ屋さん。

そこの、フィナンシェが私のお気に入りだった。

でも、自分のためじゃない。
香織さんにあげようと思った。
根拠はないけれど、これなら香織さんも食べてくれると、そう確信していた。


フィナンシェを買って、帰ろうとしたとき、向かいの喫茶店に目が行った。
ガラス張りの店内に、向かい合う男女。
何か見覚えのある気配を感じて、ふと見てしまったのだ。





その時の感情を、何と名付けたらいいだろうか。





そこにいたのは、啓と香織さんだった。


目が離せない。
息が苦しい。


ああ、終わりなんだ。
そう思った。






儚い二人が向き合えば、より一層美しさは増して、まるで二人だけが世界から切り離されているような光景だっ
た。

愛とか恋とか、そんなものを越えて、二人は眩しすぎたんだ。


私は、フィナンシェの入った紙袋を抱いて、とぼとぼと店に帰っていった。


やはり、予感は的中してしまった。
穏やかな日々は続かない。
いや、続いたとしても、もう私は今まで通りに啓に接することはできないと思った。
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