狂妄のアイリス
第四章「さいかい」

少女

 無機質な刃先が、有機質な皮膚に入り込む。

 荒くなる息を抑えながら、その刃を引く。

 皮膚が裂けて赤い肉がのぞき、その先には白い脂肪があった。

 けれど、それもすぐに溢れた血に埋もれて見えなくなってしまう。

 カッターナイフはケースに入れず、刃をそのまま素手でつかんでいた。

 手が滑ると、側面の刃が手のひらを切り裂く。

 血が流れて、切っ先の血と混じり合う。

 鏡に血の色が移り込む。

 白い洗面台に落ちた血の色が、鮮やかだった。

 この光景をキレイだと思う私は、狂っているのかな?


「とっくに、狂ってるじゃないか」


 鏡の中にいるのは私だけで、樹はいない。

 でも、樹は確かに私の隣で私の血を見ている。

 脂肪の見えた傷口に、再び刃先を突き立てた。

 もっと深く、私は何度も傷口に傷口を重ねる。

 栓のされた洗面台に、水じゃなくて血が溜まっていった。
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