僕らが大人になる理由
第1章
はじめの一歩
例えば、明日があたしの20回目の誕生日だとして、
あなたは明日から完全な大人ですよ、と言われたとして、
だからなんだって言うんだろう。
一体あたしの何が変わるんだろう。
ランドセルからセーラー服に変わって…ブレザーを着ていたたった3年間の日々なんか、あっという間だったように思える。
毎日7時に起きて、課題やって、部活やって。
そこに‘学校’があったから、当たり前のようにやってきたこと。
今まで淡々と与えられてきたものが、今、全て無くなってしまった。
あたし、与えられないということが、こんなに怖いなんて知らなかった。
子どもと大人の狭間。
今すぐどっちかに、転がり込んでしまいたい。
「桜野真冬(サクラノ マフユ)…18歳。特技トランプの神経衰弱、資格漢検1級、私立K学園卒…ここってすごい進学校じゃなかったっけ?」
「はい」
「大学受験しなかったの?」
「全落ちしました!」
「じゃあ、なぜここに?」
「まかないが美味しいって聞いたからデス!」
「あっははー。正直すぎ」
机を挟んで向い側。
自分の履歴書をじっと見つめられていると、なんだか変な汗が額からにじみ出てくる。
店長の人差し指が下唇を撫でるたび、不安で胸がいっぱいになった。
黒縁メガネから見える伏し目がちな細い瞳が、今、あたしを評価している。
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