だから私は雨の日が好き。【花の章】

兄妹






「あいつ、兄貴のこと話すの躊躇ったろ?」




仕事とは関係のない質問が飛んできて、俺はすぐに反応が出来なかった。

櫻井さんの言葉を理解しようとして顔を上げる。

そこには、さっきまでとは違う。

何故か悲しそうな顔で笑っている櫻井さんがいた。




「はい。これ以上聞くな、って顔をされました」


「そうだよな・・・」


「櫻井さんは、ご存知なんですか?時雨のお兄さんについて」


「あぁ・・・。良く知ってる」




そう言った櫻井さんは、兄貴のことを話す時雨と同じ顔をしていた。

顔の作り自体が似ているわけではない。

その表情が『大切な想い出なのだ』と言っている。

まるで自分のことのように話をする櫻井さんを見て、俺は何も聞けなくなってしまった。




「時雨の兄貴は、俺の大学の先輩だ」


「え?そうなんですか?」


「あぁ。ついでに時雨の恋人だった人だ」




俺は息を呑んだ。

そして、喰い入る様に見つめるその人は、困ったように笑っていた。




「そんな顔で俺を見るな」


「どうして、それを俺に?」


「お前には教えてやった方がいいと想ったからだ」


「・・・時雨は、俺に知られたくないんじゃないですか?」


「そうかもな。でも、いずれは言うつもりでいるだろう」


「じゃあ、なんで今なんですか?」


「お前が後悔しないためだよ」





< 20 / 295 >

この作品をシェア

pagetop