さみしがりやのホットミルク

「君のことを、誰かが傷つけませんように」

この、奇妙な同居生活が始まってから、6日目。

木曜日の、夜のこと。



「そういえばオミくん、明日って学校の後何か予定ある?」



カチャカチャ食器を洗っていた俺に、佳柄がテーブルを拭きながら訊ねてきた。

もうからだの痛みもないし、いつまでも何もしないでいるのは申し訳ない。そんなわけで、せめて片付けくらいはと思い、自分から申し出て食器洗いを手伝わせてもらっていた。

俺は少し考えてから、後ろにいる佳柄を振り返る。



「ん、別にないけど」



家出したとはいえ、授業で使う教科書類は、すべて学校のロッカーに入れてあった。

だから俺は月曜日から、普通に学校へは通っていて。

問題は、学校へ行くまでに、うちの人間が待ち伏せていないかどうかだったわけだけど……今のところ、幸い誰とも会わないで済んでいる。

まあ、本気で連れ戻すつもりならとっくに接触してきてるだろうし……様子見で、とりあえず学校くらいには通っていたのだ。


そっかあ、と、佳柄が中腰をやめて床に座った。



「あたしね、明日は午前中しか講義ないんだけど……友達と、ランチと遊ぶ約束してて。だから帰りは、もしかしたらオミくんより遅いかも」

「ふぅん」

「まあ、一応合鍵あるし。それ使ってね」

「……どーも」



にこりと笑う佳柄に、小さくお礼の言葉を返す。

一緒に住み始めてから今日まで、彼女が俺よりも後に帰ってきていることはなかった。だから、月曜日の朝の時点で渡されていた合鍵を、使うことはなかったんだけど。

……なんだかなあ。普通に言うけど、佳柄は俺みたいなのに部屋の合鍵を渡すことに、抵抗ないんだろうか。

なんだか複雑な気分になりながら、俺は再び、食器洗いを再開した。
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