極上エリートの甘美な溺愛
告白は甘く




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翌日、玲華は黙々とCADに向かって図面をひいていた。

夕べの将平とのやり取りが頭の中から離れないどころか、額や唇に落とされた熱が今も残っているような気がして、なかなか仕事に集中できない。

「だめだな。……今日中に仕上げなきゃいけないのに」

玲華は目の前の画面を見ながら大きくため息を吐いた。

自分の感情を仕事に影響させてはいけないのに、将平とのことばかりを考えてしまう。

自分はまだまだ半人前だなと感じ胸が痛い。

お客様が一生に一度、人生をかけて、と言っても過言ではないほどの大きな買い物。

家を建てるということは、それだけ大きなイベントであり、その手助けをさせてもらう自分の仕事は、何一つ手を抜いてはいけない重要なもの。

何度も篠田からそう言われ、精一杯応えてきた玲華だが、今の彼女は篠田をがっかりさせる図面しか描けないように思えて仕方がなかった。

普段なら、天井高や窓の位置を描いただけでその家の空気の流れが見えるような気がしてわくわくするというのに、今日の玲華には図面から溢れる家族の笑い声が聞こえてこない。

自分の感情にばかり囚われて、図面の向こう側にあるはずのお客様の生活を具体的に感じることができなくて、途方に暮れる感覚。

玲華がそんな感覚を感じるのは初めてだった。

気持ちを切り替えるように手元のコーヒーカップを口に持っていくが、空っぽだと気付き、どっと落ち込んだ。

「いつ頃仕上がる?」

玲華の隣の席に、いつの間に来たのか、篠田が腰をおろした。

「ふーん」と呟きながら、玲華が描いている図面を見るが、納得いかないのかその表情は苦しげだ。

今玲華が進めている図面は篠田が今日の午後必要としているもの。

気になって様子を見に来たんだろう。

「あ……あと1時間くらいで仕上げます」

玲華は落ち込む気持ちを隠すように明るく答えた。

自分の笑顔は、ちゃんと笑顔に見えているだろうかと、不安な気持ちでいると、そんな玲華の思いなどお見通しだとでもいうように、篠田はくすりと笑った。

「で? 葉山の気持ちが通常営業に戻るのはいつなんだ?」



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