ロスト・クロニクル～前編～

第二話 故郷へ

　メルダースの朝は、静寂に包まれていることが多い。学ぶ生徒に比例して騒がしい朝だと思われたりするが、意外にこの時間帯は静かだ。しかし、今日は違っていた。朝から騒がしく、一部の生徒の顔が青ざめていた。そして中には、緊張によって倒れてしまっている生徒もいる。

　今日は、卒業試験が行われる日。

　まさに、人生最大の試練。合格か不合格かで、これからの人生が決まってしまう。大げさとも思われる内容であったが、メルダースの卒業試験は違う。それだけ重要且つ大事なのである。

　朝から、ピリピリとした雰囲気が漂う。

　更に、八つ当たりも行われていた。

　大事に発展しないだけいいのだが、一歩間違えれば流血騒ぎになってしまう。それほ、卒業試験は生徒の神経を昂ぶらせる。無論、多くの生徒がこのことを知っていた。知っていたからこそ、試験を受ける生徒に言葉を掛けない。そして、遠巻きにその光景を見詰めるだけであった。

「大変だね」

「来年、同じ体験をするよ」

「それは、まだ平気だよ」

「へえ、留年したいんだ」

　卒業試験が行われる校庭の隅に、エイルとラルフは座っていた。魔法の試験は、知識と技術を問われる。それが行われるのはこの校庭であり、二人と同じように見学組みが数多く存在した。

　魔法を学んでいないラルフには関係のない分野であるが、興味本位で見学に来た。そしてエイルはただの付き添いであるが、彼もまた興味があった。来年、同じように試験を受けないといけないからだ。

「留年は、したくないね」

「どうかな」

「俺は、頑張るよ」

「うん。頑張れ」

　ラルフの将来など、興味などなかった。彼がどのような人生を歩もうが、他人に迷惑を掛けなければそれでいい。何よりエイルは、自身の将来が心配であった。だからこそ、ラルフのことは気にならない。

　卒業試験を見守る生徒の大半は将来の自分の姿と重ね合わせ、今から危機感を持つ。特に最終学年になる生徒はそれが強いが、ラルフだけは違う。相変わらず、のほほんと身構えている。これで本気で卒業を考えているのだから、メルダースを甘く見ているとしか言いようがない。