忠犬カノジョとご主人様

ソラ君の野望と嫉妬②




「あの、イルカ好きなんですか!?」


まだ誰もソラ君に話しかけていない中、私は周りの目も気にせずにソラ君に話しかけた。

一瞬周りがしんとなった。

第一回同期飲み会でのこと。

就活が終わって、死ぬほど遊びまくって、だんだんと社会人になる決心をかたまらせていた時期。

私達は、さぐりさぐりで同期と親睦を深めようとしていた。

けれど、私は偶然ソラ君と隣の席になってしまったことが嬉しくて、乾杯終了後すぐに話しかけてしまったのだ。

ソラ君は目をぱちくりとさせてから、ふわっと笑った。


「はい、水族館に行くことが趣味なんです」


―――王子様だって思った。

すっと通った鼻筋に、切れ長の瞳、顎から耳にかけてのラインがとてもきれいで、知的なまなざし。

少しだけワックスでふわっとさせた黒髪が爽やかで、時折見える少しごつめの高そうな時計が恐ろしく彼に似合っていた。

おもわず恍惚としてしまっていた私に、ソラ君は色々話しかけてくれた。


「双葉さんも好きなんですか? イルカ」

「ご出身はどちらなんですか?」

「配属どこに決まるか不安ですよね」

「一緒になるといいですね」


すごいこの人……するすると会話をリードしてくれる……。

ソラ君がとてもフレンドリーな人だと分かった他の同期の人たちは、次々にソラ君に話しかけていた。

ソラ君は一人一人丁寧に受け答えていて、全然エリートぶったりもしなかったし、とても謙虚で上品だった。

敷居の高い男性、って言ったらいいのだろうか……。とりあえず今まで学歴だけ武器にしてモテてきたような酒好き女好きの下品な男性たちとは違った。

私は正直その時、乙女ゲームの相手役にこういう人いたな……くらいにしか思わなかった。


それくらいソラ君は最初から遠い人だったんだ。


2次会が終わって、地方組はオール、都内組は帰宅する、もしくは一緒にオール、という形になった。

ソラ君はしつこくオール組に誘われていたが、紳士に断っていた。

どうも次の日に用事があるらしい。

なんだかカラオケオールで騒いだりしない所もかっこよく見えちゃって、なんだかもう彼のする動作1つ1つがモテる男性のお手本のように思えた。

(というより私の大好きな乙女ゲームのキャラクター“リク先輩”にたいへん似ていたので勝手にきゅんきゅんしていた)。

私はどっちかと言うと飲み明かしたりオールしたりコールしたりするリア充大学生に正直あんまりついていけない(在学中は必死についていくふりをしていた)タイプだったので、彼のそういう所にますます惹かれてしまった。

やっぱりリク先輩は飲むことにしか能がない大学生とは違うんだ……!

私はもう完全に脳内でキラキラオーラを合成してソラ君を見ていた。
< 18 / 71 >

この作品をシェア

pagetop