ホルケウ~暗く甘い秘密~



金曜日の午前7時、りこは朝食のフレンチトーストを口に運びながら、朝のニュースを凝視していた。


『昨日未明、北海道白川町の森林公園で、2頭のエゾシカの死体が発見されました。このエゾシカの死体には不審な点があるとのことですが、どういった点が不審なのでしょうか?幸村さん』


最近お茶の間で人気の女子アナの目線の先には、北海道大学で教鞭をとる生物学者、幸村がいる。
祖父の政宗と親しい初老の教授は、戸惑いを微かに残しながら答えた。


『このエゾシカの死体には、ある獣の体毛が付着していました。その獣がエゾシカを貪ったのですが、写真をご覧になりましたよね?』

『ええ、大変無惨な姿でした……。ある獣とは、一体なんなのでしょうか?』

『オオカミです』


教授のその言葉に、女子アナは見るからに怪訝そうな顔をした。


『そう、私も最初に調べた時には我が目を疑いましたよ。日本のオオカミは、とっくの昔に絶滅していたのだから』


驚きに目を見開く女子アナとそっくりの反応をし、りこはテレビの音量をあげた。


『しかも、オオカミの種類がこれまた奇妙なんです。ロシアに棲息する、ロシアオオカミなんですよ』

『それはまた……しかし、なぜロシアオオカミが北海道に?』

『わかりません。一体どういった経路で北海道に入ったのか……。ただ、確実に言えることは、現在白川町の森林公園付近には、複数のロシアオオカミがいるということだけです。エゾシカの死体の発見現場周辺にあった足跡を調べました。正確な数はまだ把握出来ていません』

『今後、オオカミが人里に降りてくる可能性はありますか?』

『今のところほとんど無いと思います。オオカミは、鹿以外にも木の実やリスを食べるので、白川町の森林の中で食べ物を手に入れるでしょう。したがって、オオカミが人里に降りてくる理由はありません』

『ありがとうございました。オオカミの目撃情報はまだ入っておりませんが、万が一見かけた場合はなるべく離れてください。また、オオカミが白川町に入った経路は、現在、道警と北大の生物学の研究チームで捜索中です。さて、次のニュースですが……』


(絶滅したはずの、オオカミがこの町に……)


町中にでも出て学校が休みになればいいのに。
不謹慎とは思いつつも、ついりこはそう夢想してしまった。

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