天神楽の鳴き声
第二章:舜秋祭

音無

静かな夜だった、遠くで鳥の鳴く声がやけに大きく響いている。寝台に腰かけ、窓の外をみていた雛生に、志臣は紅の生地に金の刺繍の入った肩掛けをかけた。雛生は志臣を見上げ笑った。

「ありがとう」

志臣は腰かける雛生を抱きすくめた。いつもとは違う抱き締められ方で、驚いて、肩が揺れる。志臣に男性として意識してしまうほどの、力強いこんな抱き締め方があること、そんな志臣に大きく傾く自分を自覚して動揺していた。そして、いつも見ていた彼が彼の一部分でしかないことも。

そのままゆっくりと雛生は寝台に寝かされる。手慣れてると下世話な想像が頭を過るが、志臣と雛生の年の差を考えれば当たり前だろう。

雛生のためにゆっくりあわせて歩いてくれていた事を思い知らされる。恐怖と少しの緊張を紛らわすために手を握った。志臣は志臣だ、そう、心の中で何回も呪文みたいに唱えた。自分でいったことなのに、自分の覚悟の足りなさに腹が立つ。
帰ってきてから雛生は志臣に、漆蕾の病を抑えるために、あなたに抱かれる、あなたの子を産むと言ったのだ。

覚悟は出来ていた筈だった。これから及ぶであろう行為が想像できなくて怖かった。

「雛…、こわいの?」
「…ぜ…ん…ぜん、こわく、ないわよ」

雛生の裏返った声に志臣は吹き出した。恥ずかしさが達し、いつものように彼に肘鉄をいれる。暗くてよくわからないが、まともに入ったのだろう、低く呻く声がする。
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