隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
逃げ出した女
達也に話をしたいと切り出し
週末、隣町のカフェに繰り出した。
いつも見慣れた商店街とは段違い。
地中海をイメージした白い壁に青いオブジェ。
茶色い巻き髪のお姉さん達の後ろの席に座り、肩に力が入る。
アウェイ。
「何にする?」
古臭いそば屋も
おしゃれなカフェも似合う男。
「普通のコーヒー」
私の答に呆れたように笑う。
昔から変わらない笑顔。
傍に来たイケメン店員に注文をし、私は達也の顔をジッと見る。
「重い話?」
笑顔を見せながら
眼鏡の奥の瞳は静かで力強い。
もう
全てを理解している目。
「先に言おうか?」
達也の聞き慣れた声が怖い。
「お前はこーゆー時、一気に言うから、聞き手を混乱させる」
長年の付き合いが深いと指摘も鋭い。
私がうなずくと
「お前は言う『好きな人がいる。相手は隣の子持ちの男。どうしたらいいかわからないけど、自分の気持ちは抑えられない。だからごめんね』と」
棒読みで言われ、また私はうなずく。
「そして、俺が何て返事するか……お前言ってみろ」
「へっ?」
「抜けた返事すんなよ。お前にそう言われて、俺がどう返事するのか言ってみろ」
腕組みをしながら達也は言い
私は逃げられず真剣に考えてから顔を上げた。
「きっと達也は『お前は頑固だから』って……言う」
そう言うと
「わかってんじゃん」
達也は言い
コップの水を喉に流し込み
「隣のそば屋の水の方が美味しい」
微かに笑う。