誘惑~初めての男は彼氏の父~

二人

***


 「理恵、会いたかったよ」


 佑典はオーケストラ部のコンクールで、全国三位入賞という輝かしい成果を収め、月曜日の午後に札幌に戻ってきた。


 その後大学まで戻ってから、解散。


 佑典は自宅から大学までの公共交通機関が不便なので、こっそり車で通学している。


 車での通学は禁止されているため、大学の敷地内に車を隠して駐車させているのだった。


 その「秘密の駐車場」にて、夕刻に待ち合わせ。


 ちょうど佑典は、重たい楽器をトランクに入れているところだった。


 「おかえりなさい」


 「ただいま」


 何も知らない佑典の笑顔が、私の胸に痛みを与える。


 まさか自分の留守中に、私が父親と関係を持っていたなど・・・。


 「とりあえず、食事に行こうか」


 「あ、あの」


 「ん?」


 「家に電話しなくていいの?」


 「えっ。家に? どうして?」


 「長旅を終えて帰ってきたのに、真っすぐ戻ってこなくて、お父さん心配するんじゃ・・・」


 「父さん? あの人今日も出先で食べてくるみたいだし。放っておけばいいよ」


 そのまま車は発進した。
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