身代わり王子にご用心

過ぎ去りし日々




エリンギとアスパラガスのバター炒め、サーモンと玉ねぎのサラダ、野菜いっぱいのコンソメスープ、蒸し鶏のバジル添え。
後はライ麦の食パンをフレンチトーストにしてみた。パンに残ったライ麦の粒がナッツみたいで美味しいんだよね。


今日の朝食は洋風でまとめてみて、出来上がりをチェックして頷く。


(うん、我ながらうまくできた。美味しいって言ってくれたら嬉しいけど)


一人で頷きながら時計を見れば、朝の6時半。そろそろ起こしにいかなきゃ。


パタパタ、とスリッパを鳴らし廊下を歩く。すっかり慣れた廊下をセンサーライトの灯りを頼りに進んだ。


キッチンのあるダイニングから出て右手2番目の部屋。いつものように三度ノックして、反応がないから遠慮がちに開けた。


「あ……」


ドアを開いて中に入った瞬間、ガランとした空間に声を失った。


……そうだった。


もう、ここにはいないんだ。


高宮さんの身代わりを演じていたカイ王子は、役割を終えて本来いるべき場所へ帰っていった。


それなのに……私は。


この2ヶ月の間に染み付いた習慣がまだ抜けてない。


(ううん、違う)


きっと私は毎朝のこれにかこつけて、カイ王子と会いたかったんだ。


音を立てないように気をつけながら中に入ると、部屋は彼がいた時のまま残されてる。


よく突っ伏してたテーブルや、暑くて蹴飛ばしたふとん。勉強していた本を詰めた本棚――。


……もう、いない。


二度と、帰って来ないんだ。


彼が残した布団を抱きしめると、微かに香りが残っているような気がして。一人で静かに涙を流した。



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