砂の国のオアシス
第一章

ここはどこなの・・・?
私はどこを歩いているの・・・?


ついさっきまで、私はアスファルトの道を歩いていたのに、今私は、土と落ち葉と小枝を踏みしめている。
そして夜の9時を過ぎた空は暗かったのに、鬱蒼と茂る木々の間からは、明るい陽射しが見える。
ということは、森の中にいても、ここは昼間だと分かる。

でもこの森は一体・・・どこなの?
私は今、どこにいるの!?
今日は何月何日?
何時何分?

・・・そうだ!スマホ!

私は立ち止まると、バッグの中をガサゴソとあさって、スマホを取り出した。

『2月14日 21:43』

やっぱり。
ついでに自分が来ている服を見て、やっぱり今日は2月14日だと確信する。

2月14日(バレンタインデー)は、私の誕生日。
だから今日は、いつもより少しオシャレして出かけたんだ。

とは言っても、出かけた先は、バイトをしているファミレスで、そこで友だち数人からお誕生日を祝ってもらって。

19歳になったばかりの私は、誓ってお酒を飲んでいない。一滴も!
だからこれは、酔っ払ったせいで夢を見ているわけじゃないことは分かる。

ていうか、ほんの数分前まで、私はいつもの道を歩いていたんだし!

それにしても・・・この格好じゃ暑い。
ここは夏なのかな、と思いつつ、私はピンクのマフラーと手袋を外して、バッグに押し込んだ。

そして、まだ手に持ってるスマホを見ると、さっきまで一緒に晩ごはんを食べていた、友だちのあっちゃんへ電話した。

でも「電波が届かないところに・・・」という声しか聞こえない。

とりあえず電話はあきらめて、メールにしよう。
と思って画面を開いたものの、その先が進まない。

『今知らない森の中にいるの!助けて!』というメッセを送ったところで、あっちゃんにも助けようがないじゃない。

私はあきらめのため息をひとつつくと、スマホをオフにして、バッグに入れた。
充電コードが手元にないから、無駄遣いはできない。

ホントにここはどこなのか・・・私には見当もつかない。
近所にこんな森なんてないし。

もしかしてここは、死後の世界、とか・・・・・・?

私は思わず自分の両腕を交差させて、当たった腕をパンパン叩いた。

うん、感じる。
すり抜けてもいない。

死後の世界、イコール魂だけ、イコール自分が透明人間みたく、薄くなってるんじゃないかと思ったけど・・・。
でも地面に落ちてる葉っぱとか小枝とを踏みしめている感触は、足の裏からしっかり感じるもんね。

ふと下を見ると、土がついているパンプスが目に入った。

しかし、ヒールがほとんどないとはいえ、パンプスで森の中をさまようのは場違いでしょ。
場違いと言えば、おめかししているこの服だって、森の中(ここ)じゃあTPOをわきまえていない・・・「痛っ」。

右のふくらはぎあたりに、チクッとした痛みが走った。

「何・・・きゃあぁっ!!」

私の叫び声に驚いたのか、長く、真っ白なヘビが茂みの方へ、ニョロニョロと這っていった。

こ、ここ・・・ヘビがいるのっ?!
さっきのだけじゃなくて、もっとウジャウジャいたら・・・。
この森、実はヘビの巣窟とか!!

想像しただけで、ものすごく怖くなった私は、一刻も早くこの場を離れたい一心で、また歩き出した。











・・・どれくらい私は歩いたんだろう。
ずっと歩いているけど、見えるのは木と葉っぱと小枝と・・・つまりさっきから同じ景色ばかり。
スマホを取り出して、時間を確認する力もない。

だんだん力が・・・なくなってる気がするんだけど・・・。

よろめいた私は、その場にへたり込んだ。
お気に入りの黒いコートが土で汚れたけど、そんなのどうでもいい。
お気に入りのタイツだって、さっきヘビに噛まれたから穴開いてるだろうし。

「帰りたい・・・」

ふと漏れた一言に、思わず涙ぐんでしまったとき、正面からガサガサと音が聞こえてきた。

これは・・・足音?


しゃがんだまま、思わず音がした方を見ると、そこから人が・・・男の人数人がやってきた。
まさかここに人(私)がいるとは思っていなかったのか、その人たちも私から少し離れたところで立ち止まった。


お互い見ること数秒。
あっちの方から「ここで何をしている」と聞いてきた。

・・・英語だ。
まあ、この人たちの彫りの深い外見は、絶対日本人じゃないと言いきれる。
それに背が高い・・・ていうか、元々チビな上にしゃがんでいる今の私から見たら、子どもでも背が高く見えるよね、ハハ。

心の中で渇いた笑い声を上げた私に、「ここで何をしている」ともう一度聞かれた。

「言葉が分からないのか?」
「え、いえ・・・道に迷って・・・」

としか今の私は言えない。
それに「道に迷った」のはホントのことだし。

私はよろめきながら、どうにか立ち上がると、「外に連れて行ってくれませんか。おねがいします」とその人たちに懇願した。

一応ちゃんと英語で言えたけど・・・フラフラする。

この人たちが善人かどうかは、はっきり言って分からない。
でも一人でこの森をずっとさ迷い歩くより、誰かについていったほうが、はるかにマシだ。
仮にこの人たちについて行って、外に出れたとして。
その後のことは・・・そのときに考え・・・。

体がガクンと揺れて、前に倒れそうになった私を、その中の一人が抱きとめてくれた。
そして彼の後ろにいる人たちが「リ・コスイレ!」と口々に言った・・・気がした。

リ・コスイレって・・・英語?じゃないよね。
この人の名前かな。

この人・・・真ん中に立ってた、すごく・・・大柄で頑丈そうな体つきしてるのに、身のこなしも素早いんだ・・・。
それにいい匂いがする・・・。


「脚をどうした」
「・・・は」
「右脚だ」
「あ・・・あ、かまれ、た・・・ヘビ・・・」

意識が薄れていくのは、もしかして、それで・・・。

「まだだ。ヘビの色は」
「え・・・し、ろ」

私を抱きかかえている男の人が舌打ちした。
そして彼の後ろにいた人たちから、どよめきが起こった。

「それでか」と男の人は言うと、私が持ってたバッグをいとも簡単に奪い取った。
力が抜けてる今の私には、抵抗する力もない。

男の人は、私のバッグを、私を見たまま後ろへ放り投げた。
そのバッグを、彼の後ろにいた人の誰かが受け取ってくれたみたいだ。
地面に落ちた音がしなかったから。

スマホ・・・入ってるから、あまり乱暴に扱わないで・・・。

男の人は、私を見たまま「IDを調べろ」を後ろの人に言った。
「はっ」という声が聞こえたことから、どうやら男の人はそのグループの上の人、後ろの人たちは部下、みたいな関係らしい。

「おまえはどうやらデイモンマに噛まれたようだ。今から病院へ連れて行く」
「え・・」
「カイル様、IDは見つかりません」
「ほう。おまえは不法侵入者か」
「は・・なん・・・学生証・・・」

でもこの人たち、英語をしゃべってるから、日本語で書かれた学生証がイコールIDじゃないってこと・・・よね。
それに彼らが学生証を見つけたところで、日本語読めないだろうから、やっぱり無意味か。

それより不法侵入者って・・・ここ、日本じゃないの・・・?

「リ・コスイレ」
「俺が馬で病院へ連れて行く」

男の人は、私を軽々と抱きかかえると、スタスタと歩き始めた。

「しかしカイル様、むやみに動かすのは得策ではありません」と言いながら、後ろの人たちもついてきているようだ。

「この入り組んだ場所にヘリは来れん。救急車を呼んでも時間がかかる。となれば、馬で病院まで運ぶのが一番早い。トールセン」

今度は呼ばれた男の人に抱きかかえられた。
その間に彼は、馬に乗り、そっと私を受け取った。

「俺の前に乗れ・・・そうだ。交通機関を一時遮断させても構わん。娘の命を最優先させる。とにかく俺の邪魔をさせるな。責任は俺が持つ」
「承知しました、カイル様」
「ウィン、病院へ連絡を入れておけ」
「分かりました、リ・コスイレ」

とウィンが返事をした頃にはもう、彼・・・カイル・・様、は、馬を走らせていた。


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