聴かせて、天辺の青
(7) 未来を描いて

◇ 曇った空



温泉なんて来るんじゃなかった、とは思わない。だけど、どうして……という気持ちが渦巻いてる。



『彼はブルーインブルーのサポートメンバー』
『キーボードのヒロキ』



麻美の言ったことが、いつまで経っても頭から離れてくれない。



真偽なんて、どっちでもいい。
そんなことよりも私にとって、もっと重要なことがある。



行きと帰りでは、車内の空気はまったく違ってしまってる。行く時にはあんなに弾んでいた会話が嘘のように途切れて、車内は沈黙。



彼の笑顔を返して。
私が願うのは、彼の笑顔。



ほつれてしまった糸を、どう始末しようか。何と声をかければ戻るのだろうと、ただ迷いながら私は車を走らせるだけ。



あの後、和田さん達に連れられて何杯かビールを飲んだらしい。ほんのりと赤く染まった彼の顔は、車に乗る時に見たきり。



彼は助手席側の窓から、川辺を眺めたまま。こちらを見ようともしない。



実際に彼が景色を眺めているのかさえ、私からはわからない。寝ているのか起きているのか、息をしているのかさえ。
ずいぶんと長い沈黙に息苦しくなってきて、もう限界。



何か話そう。
何でもいいから。




< 281 / 437 >

この作品をシェア

pagetop