聴かせて、天辺の青
(8) 変わりゆくもの

◇ 再会への勇気


「英司、帰ってくるらしいな」



ぶっきらぼうな海斗の声に呼ばれて振り向いた。



昇ってきて間もない太陽が弱々しく照らし出す風景に、私まで蕩けてしまいそうなところ。海斗の車の助手席は乗り心地が良くないというのに、窓の外を流れる風景は心地よい揺らぎを引き起こす。



海斗の声には溶かされてしまいそうな私の意識を、ぐいと引き揚げるような力強さが感じられる。



「うん、知ってる」

「なんだ、知ってたのか」



海斗はとくに驚くこともなく頷いて、車を停めてハンドルから手を離した。



前方の信号は赤色。明るくなった景色に馴染んできた赤い色を眺めながら、海斗の言葉を待ってみる。



だけど、何も言い出そうとしない。
シートに深く体を預けて、ぼんやりと前を見据えたまま。



「私は一週間ぐらい前に知ったよ、英司からおばちゃんに電話がかかってきた時に傍にいたから」

「そうか……俺もおばちゃんに聞いたんだ、昨日の帰りにおばちゃんが見送りに出てきて教えてくれたよ」



ちらりと振り向いた海斗は、微かに口元に笑みを浮かべてる。




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