むとうさん

信じる恋

「次は何お作りしますか?」

ハイネケンを空けた私に柏木さんはいつも通りの笑顔で言った。

もっと流行ってもいいだろうというくらい素敵な店なのに、今日も静かな時がspaceには流れる。

いつもと変わらない柏木さん、美味しいお酒、落ち着く空間と、ブルーライトに照らされる水槽。

むとうさんがいないこの空間が当たり前になって、いつもと変わらない、になるのだろうか。

私は昨日山崎のおばさんからきいたことを考える。

むとうさんは…おじさんと深い繋がりがあって。高校生の時から芯にあるものは今と変わらない、寂しさを背負った強さで。

アボカドにソースも…家に醤油を切らしていたからじゃなくて、おじさんから教えられたことで。一人で食事していたのが、おじさんのうちで食事をするようになって。家族ではないけど、誰かと同じものを食べて…

同じものを食べる?

私と食事する時は必ず私と同じものを頼んで食べていた。それはメニューを選ぶのが面倒だからなんかじゃなくて…
家庭の食卓でみんなで同じものを食べる幸せを求めていたからなのではないか。

そして、私は色んな点と線が繋がっていくことを感じた。
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