むとうさん

幸せの紺色

久しぶりに愛車のゴルフに乗る。事務所の場所は突き止めたが、少し移動があるかもしれない。川崎駅周辺に車を出すのは少し不便だが。

大学三年の頭にバイト代で中古で買った紺色の相棒は、いつもいい思い出を運んできてくれた。

サークルの男友達が好きな女の子に告白するドライブデートの日にこの車を貸したら見事実った。

就活の時は、我が社の最終面接でたまたま面接官の息子さんが好きでゴルフを持っていたことから話が弾み、自社製品でもないのにいい流れで合格した。

ラッキーを運んできてくれるこの車なら大丈夫。
パーキングがちょうど良く空いていることを願い、エンジンをかけた。

***

iPhoneのマップで、見つけた住所を入力して探っていく。ようやく見つけた事務所はどうやらアパートの一室のようだった。

少し立ち止まって考える。ここでいきなりインターホンを押しても、門前払いされるだけだろう。

武藤さんの知り合いです、といっても通してもらえるかは不明だ。会社の仕事として入るか。でも、入れてもその先がどうなるか分からない。

勢いできたは良いが作戦を練らなければ。アパートの下でうろうろしていると、階段からジャージの男が降りてきた。
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