倦怠期です!

15

新聞を読んでいた有澤さんは、物音で気づいたのか、私の方をパッと見ると、ニカッと微笑んだ。
私と違って、有澤さんは全然緊張してないようだ。
屈託のない笑顔はいつもどおりに見えるし。
もしかして私、あれこれ考え過ぎ?
有澤さんにはその気が全然ないんじゃない?

それはそれでホッとするけど、同時に自分が女と見られてないような気もして・・・残念と言うか何というか・・・。

「シャワー、ありがと」
「おう。じゃー俺もシャワー浴びてくるから、テキトーにくつろいでて」
「あ、はい」
「水と食いもんの場所、知ってるよな」
「うん」
「テレビ、観たかったら観てていいよ」と有澤さんは言いながら、お風呂場のほうへと歩いて行った。

・・・さて、と。
まずはコンタクトを外しておこう。
コンタクトをつけたままシャワーを浴びたせいか、コンタクトが目にくっつき過ぎてるような感じがするし。

私はキッチンへ行くと、小さめのコップを二つ取り出して、水道水を注いだ。
その中に一つずつレンズを入れると、コップにラップをかけた。
度はどちらも同じだけど、右は右、左は左、と覚えておく。

案の定、コンタクトを外した途端、私の視界は少しぼやけている。
お泊りするって分かっていれば、メガネはもちろん、コンタクトを入れるケースも持ってきてたんだけどな・・・。
って、急に決まったことだし!

・・・この沈黙はちょっといや。
と思った私は、テレビをつけた。
裸眼だからぼんやりとしか見えないんだけど、テレビから聞こえる笑い声と明るさが、私の緊張を和らげてくれる。
私は「あ。雨降ってきた」と呟きながら、リビングのカーテンを閉めた。


それからすぐに、有澤さんが戻ってきた。
有澤さんは、こっちに来なくて、キッチンの方へ行った。

「なんだこれ」
「あー!それ、コンタクト入ってるから・・」
「あぁそう。分かった。これ、洗面所に持っていっとこーか」
「あ、うん。おねがいします」

そしてお風呂場から戻ってきた有澤さんは、ソファに座っていた私の隣にドカッと座った。

「これ観てんの?」
「うー・・・ううん」

実際あまり見えないのもあるけど、それ以上に緊張してて、内容が入ってこない。
単に手持ち無沙汰にテレビをつけていただけだ。

有澤さんがテレビを消したと気づいたのは、急にその場がシーンとなったから。
そして不意に有澤さんが、私の耳元で「すず」と囁いた。

「ひゃっ!あっ、あの、今日仙崎さんは・・・」
「仙崎さんにはカノジョ連れて来るから、今日は帰って来ないでくださいって言ってある」
「あ、そ・・・」
「部長や課長や水沢にも、今日は俺のカノジョが泊まるから、ここには寝る場所ないので、酔ってもここには来ないでくださいって言っておいた」
「・・・あ、そぅ」

てことは、「俺のカノジョ」って・・・私?!

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