初恋 二度目の恋…最後の恋

そうは思っていても

 身の回りの整理といわれてもそんなに荷物は無い。研究所から持ってきたのは最小限のもので、それも使っていたファイルとかボールペンとかの文房具が主だった。


 研究室に居たときは膨大な資料に撲殺されていたけど、研究もしない今となっては何も必要ない。営業課での仕事は何をするのか想像できないけど、今までとは全く違うことだけは分かる。研究所で使っていたものは必要ない。


 研究所から届いた段ボールから少ない荷物を出して机の引き出しに入れていく。そんな作業をしていると段ボールの中に捨て切れなかったROMが何枚かと私が使っていた研究ノート入っていた。それを見ると胸が掴まれるように痛い。私が必死に研究して、その記録を取ったノート。これだけはどうしても捨てられなくて…。


 必要ないのは分かっているのに捨てることなく持ってきてしまっていた。


「もう必要ないのに」


 捨てきれないROMと研究ノートは私の未練に他ならない。でも、それを一纏めにして袋に入れると机の一番下の引き出しの一番奥に片付けた。


 研究に未練があるのに私に残されていた選択肢は『転属』しかない。この選択が正しかったのか分からない。ただ、分かるのは自分が選んだということだけだった。



 自分の荷物の整理を終わらせてから営業室を掃除をすることにした。といっても、あまり扱うわけにもいかないので、書類を綺麗に並べる位しか出来なかった。そして空いているところを拭くとすぐにすることが無くなってしまった。

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