倦怠期です!

本当は派手な音を立ててドアを閉めてやろうと思ったけど、ドアに八つ当たりするのは、ドアがかわいそうだし、今は薬が効いて熱が下がっているかもしれないけど、夫の頭に響くかもしれない。
そこまで非情なマネをするのは、やっぱりかわいそうだ。
なんて思ってるなら、素直に「ごめんね。指輪ありがとう」って言えばいいのに・・・ホント、私の心はグネグネにひねくれてる。

そういう代わりに、私はフゥと深ーいため息をつくと、ダイニングチェアにドサッと腰かけた。

仕事で気を張って疲れて帰ってくる夫には、家ではゆっくり休んで英気を養ってほしいと思っているのに。
そんな私の思いとは裏腹に、実際のところ、私はいつも夫にグダグダ小言を言ってばかり。
だから仁さんは私のことが嫌いになって・・・。
そんな私のご機嫌をとるために、1泊旅行を考えていたのかもしれない・・・ううん。
もしかしたら、浮気している、(もしくはして「いた」)ことに良心の呵責を感じている仁さんは、罪滅ぼしというか、私たちの仲を修復するために、1泊旅行を思いついたのかもしれない。
それとも・・・ついに仁さんは、私に愛想尽かして・・・良い思い出作って、穏便に「離婚しよう」と切り出し・・・。

そして、時期が来たら、松坂さんと、「再婚」・・・。

・・・なんで私って、ネガティブなことは、先の先まで活き活きとイメージすることができるんだろう!
そんな自分がイヤと思いつつ、私はテーブルに顔を突っ伏して、しくしくと泣き出した。

それから1分も経たないうちに、寝室のドアが開いた。
と思ったら、背後から覆いかぶさるように、仁さんが私を抱きすくめた。

「・・・ごめん」
「う、うん。わた、し・・・ごめんなさ・・」

・・・そう。
仁さんは何も悪くないのに、謝るのはいつも仁さんが先、もしくは、仁さんだけ。
ホント私って、可愛げない上に、素直じゃない。

「やっぱり、あなたと私って、相性悪い・・うぅ、よね」
「そやな」

クスッと笑った夫の吐息が、私の耳をくすぐる。

「指輪、もらって嬉しい。でもそれ以上に、旅行とかにお金を使うのは、やっぱり・・・余計な出費だとしか思えない私って、なんというか・・・予定外のこととか、脇道にそれることを嫌がる、視野の狭い現実主義者で、視野が広くて、仕事も遊びも、何でも楽しむあなたとは、根本的に違いすぎる、じゃない、ううぅ」
「確かに、おまえと俺は、考え方が真逆な部分がかなり多い。だから俺たち、夫婦としてやっていけると思う」
「・・・なに、それ」
「“違い”があるから、足りない部分を補い合うことができるし、協力し合ったり、支え合うこともできる。だから二人で一つの物事を築いていけるだろ?」
「二人で一人、じゃないんだよね」
「そーそー。俺たちはそれぞれ一人。でもな、1足す1は、3にも10にも1000にもなれるんや」と夫は言うと、私を姫抱っこした。

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