倦怠期です!

「全身?上だけ?それとも顔だけ?」
「さあ。そこまで聞いてない」
「ふーん・・もうちょっと顎引いてー、そう。で、背中伸ばして。カメラに対して少しだけ斜めに立つのが基本」
「こうか?」
「斜め過ぎ。それだと女向けな角度になる・・・そーそ-、それくらいでいいよ」
「んぐぐぐぐ。難しいなぁ」
「あーっ、その組手は女だから絶対NG!」
「がーっ!」

・・・サルも遠吠えするんだっけ。
なんて思いつつ、私は笑うのをこらえながら、遼太郎と夫を見ているところだ。

今日、夫は会社のホームページの撮影があるため、春休みだけモデルをしている遼太郎に、ご指導いただいている最中だ。
「なんで俺が」とぼやきつつ、泣きそうな顔をしている夫だけど、業務命令とあれば仕方がない。

「座るときは脚を開く。背中伸ばしてー、そうそう。いい感じじゃん」
「普段から座るときは脚開いてるが、改めて言われると・・・妙に中心が疼くな」
「エロおやじー」
「男の性や。しゃあないやん」

・・・アホ。
私は額に手を置うと、わざとらしく深ーいため息を、一つついた。

それにしても、私がタハラに在籍していた20年前には、パソコンも一般的に普及してなかったから、ホームページはなくて、パンフレットをもらった記憶がある。
手書きで記入していた受注・売上伝票は、今ではパソコン入力になり、ポケベルは姿を消して、携帯電話からスマホへと変わった。
カンナギ家電にポケベル用の電池をファックスで注文していた、あの頃の若い自分の姿をちょっぴり思い出した私の顔に、つい笑みが浮かぶ。

「続ける」ことや、「維持する」ことって大変なんだよね。
会社でも、結婚生活でも。
目まぐるしく、そして著しい変化を遂げている世の中で、20年経ってもいまだに存続し続けているタハラ商事は、やっぱり「超一流の中堅商社」なのだろう。

私は会社(タハラ)を辞めたことを後悔していない。
別に課長や部長になりたかったわけでもないし、結婚して子どもができれば、いつかは辞めることになると分かっていたし。

それでも、タハラを辞めた私とは反対に、一社員から主任、課長、そして部長へと、順調すぎるくらいに出世街道を駆け上っている夫を見ていると、羨ましいと思う時も正直ある。
部長になったことが羨ましいんじゃない。
主婦の仕事と違って、夫の仕事は、キチンと結果を出せば、それだけ見える評価をされることが羨ましいんだと思う。

私なんて、波風がほとんどなくて、判で押したような、単調で決まりきった毎日を送ってて。
主婦業の傍ら週3日、スーパーで働いているけど、それだって昇給があるわけでもないし。
だからと言って、さぼったり、だらだらとこなしてはいないけど!
でも・・・報われないという気持ちは、心のどこかにある。

ハァとため息をいた私は、男同士、仲良さそうにしゃべっている夫と息子を見た。

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