年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~

5



その日の大輔くんは、初めから少し様子が変だった。

ぼんやりしているかと思えば、なんだか思いつめたような表情で私を見ていたり、私の話を聞いていなかったり。
疲れているのに無理して来たのかな、とも思ったけど、会えないか、と誘ってきたのは大輔くんのほうだ。

「……何かあった? それとも、疲れてる?」

今日何度目かのぼんやりに気付いて、たまらずそう声をかけると、大輔くんははっと我に返ったようだった。

「全然、なにもないです。すみません、ぼーっとしてましたね、俺」

苦笑いを浮かべて否定する。それでも普段と様子が違うことは明白だった。

「そろそろ帰ろっか。私も眠くなってきちゃった」

私が立ち上がると、大輔くんも申し訳なさそうにしながら後に続いた。

いつも通り割り勘で、外に出ると雪がちらついていた。もう三月だけど、まだまだ気温は上がらず、寒い。今年の桜は遅いかな、なんて、他愛もない話をしながら私の家まで歩く。
 
家の前まで来て、じゃあ、と別れを告げようとすると、大輔くんが何かを言いたげな顔をした。

それでも私の顔を見ると、でかけた言葉を飲み込んで、おやすみなさい、と笑って後ろを向いた。そんな彼を、私は思わず呼び止める。


「待って」


――何か、言いたいことがあるんじゃないの? 


そう危うく口から出かけた言葉を飲み込んだ。
言いたいことなんて、一つしかないだろう。返事を急かしてこないのは彼の優しさで、それに甘えているのは私。
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