オウリアンダ

高層マンションでの夜

 食事が終わり、初対面とは思えないほどマコと会話が弾んだ。
 ちなみに俺は今ビールを飲んでいる。そう、俺の為にマコがわざわざ用意してくれたのだ。その間にマコは風呂に入っていた。
 マコとの話を整理するとこうだ。マコは源氏名ではなく本名だということ。年齢は18歳。俺の一つ下だ。職業は最初の予想通りキャバ嬢。つまり未成年でキャバ嬢をしている事になる。
 法律的には一応ギリギリOKらしいのだが、勿論酒は呑んではいけない。だが酒を呑まないとなるとドリンクバックが少なくなるので、やはり店では酒を呑んでいるらしい。まあ俺も今ここで酒を呑んでいるのだから何も言うまい。
 マンションも家具も殆どお客さんから譲り受けたらしい。世の中にはそんなに金が余っている奴がいるのか。富裕層かホームレスか、どちらかと言えばホームレスとの距離の方が近い俺にとっては信じられない話だった。
 マコとこれだけ話をしても、一つだけ教えてくれない事があった。何故俺を助けてくれたのか、と言う事。その質問をすると『内緒~』と言って誤魔化されてしまった。
 正直、一番気になる所なのだが『どうせ信じないもん』と言って風呂に逃げられてしまって今に至る。
 うーん…キャバ嬢をしてるくらいだから、酔いつぶれて道端で寝てる奴を見るくらいは日常茶飯事だろう。まさか倒れている全員に声をかけて回っているのだろうか。
 いやいや、そんな事してたらキリがない。俺でさえ、酔い潰れている奴なんてごまんと見た。その全員に声をかけたとすると重労働過ぎる。
 もっとプラスに考えよう。俺の顔がタイプだったのだ。そうに違いない。顔がタイプなら助けるよな。うんうん!…いや、多分違うな。
 俺の倒れ方が酔い潰れているのとは違って見えたのかな。現にマコは最初にお酒じゃないですよね?と訊いてきた。ここらへんが現実的。
 などと考えているとガチャっとドアが開いた。
 長い髪の毛の水分をタオルで吸い取るようにして、部屋着に着替えたマコがリビングに入って来た。髪に非常に気を遣っているようだ。 俺のようにガシガシとタオルで横着に拭く感じではない。
 普段俺はガス代節約の為に水風呂に入っていた。
 うらやましい。俺も温かい風呂に入りたいなぁ。その後はフカフカのベッドで眠るのだ。ああ夢のようだ。
「ターカもお風呂入ってきたら?」
 なんであなたはそんなに親切なんですか?
「入ります!入ります!スグにでも!」
 今日の俺はすごくツイているような気がする。
「部屋着、用意しとくから入っといて。」
 マコの言葉の意味を俺はしばらく考えた。…泊まれって事なのか?
「そ、それは泊まって行きなさいと云うことでしょうか?」
何故か敬語になる。
「そうだよ」
マコが笑っている。俺は思った。泊まれる上にヤれると。
 風呂は玄関に入って左のドアだった。マコもタオルを取るために一緒に脱衣所まで付いて来てくれた。
 タオルは洗面台の下の棚の中にあるようで、マコがしゃがんで棚の扉を開けた。
 しゃがんだ瞬間、マコのTシャツが少しめくれ背中が見えた。
 少ししか見えなかったが、デカデカと刺青が彫ってあるのがわかった。和彫りだ。
 改めて思う。やっぱり変な事に巻き込まれたんじゃないかと…。
< 5 / 14 >

この作品をシェア

pagetop