10回目のキスの仕方

飲み会は苦手

* * *

「おはよう、美海!」
「明季(アキ)ちゃん、おはよう。」

 文学部2年、最初の一週間は履修する講義のオリエンテーションだった。明季は美海の高校からの友人である。

「ところで、美海さん?」
「…あ、明季ちゃん、ちょっと悪い顔してるよ?」
「私たちさ、もう2年生、しかも今年で20歳。それなのに彼氏もいない!これじゃ夢見たキャンパスライフと程遠い!ってことで、行くよね?」
「えっ、な、何に!?」
「新入生歓迎会。」
「新入生歓迎会!?」
「ってかもう行くって言っちゃったし。当日は2年生として仕事するよって洋一(ヨウイチ)に言ったら有難いってさ。」
「仕事っ!?」
「ほら、うちの学科人数多いからもてなす側が足りないんじゃない?文学部合同だし、居酒屋1件貸し切ったって話だし。」
「そんなに!?」
「ってことで、明日の7時。」
「…不安、なんだけどなぁ…。」

 去年の新入生歓迎会を思い出すと、美海はその場にいるだけで必死だった。文学部も細かく学科が分かれており、その全ての学科を混ぜて新入生歓迎会を行う。ただでさえ人とコミュニケーションをとるのが苦手な美海にとっては楽しい思い出ではない。

「もしかしたら出会い、あるかもしれないし!」
「出会い…が苦手な私はどうしたら…。」
「慣れ!場数踏むしかないでしょ!」
「…うぅ、明季ちゃん、手厳しい。」
「本だけ読んでたってねぇ!現実は違うんだからね!」
「…それはもちろん、その通りだと思うけど。」

 本と現実は違う。そんなことは美海だってわかっている。それでも、不特定多数がたくさんいる場所はやっぱり苦手だと思ってしまう。だからこそ、憂鬱な気持ちになってしまう。

「…上手に振る舞える気がしない…。」
「あ、教授来た!」

 オリエンテーションが始まっても、その内容は美海の頭に全くといっていいほど入ってこなかった。
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