10回目のキスの仕方

酔っぱらいの帰り道

「どの辺が大丈夫?」
「うっ…ひっく…うっく…もう…嫌…。」
「え?」

 涙が溢れて止まらない。膝がじんじんと痛い。道路にべったりと座り込んで、声をあげて泣くなんてまるで小さな子どもみたいだ。

「帰ろ。」
「へ…?」

 すっと目の前に差し出された手。小さい頃読んだ御伽噺の王子様によく似ている。思わず目の前の手に自分の手を乗せてしまう。その手はゆっくりと美海を引き、起こしてくれた。

「歩ける?」
「…痛い、けど…はい…ひっく!」
「なんで泣いてるの?」
「…と、まらなくてっ…ひっく!うぅ~…。」

 たまらなくなって鞄からタオルを取り出した。化粧もしているが、今はそんなことを気にしていられない。目元にタオルをあててみるものの、まだ止まってくれる気配がない。

「泣きながらでいいから歩ける?家どこ?」
「…○○町3丁目…。」
「家、近いな。ならより気にしなくていいよ。自分ちに帰るようなもんだから。」

 いつの間にか美海の手はそのまま彼に引かれている。左足を強く擦りむいたようで、体重を乗せる度にずきっと鈍く痛む。それを我慢できるくらいにはゆっくりな速度で歩いてくれていることが、今は素直に有難いと思う。

「うっ…ひっく…うぅ~…。」

 涙が止まらない。思い出すと震える。あの男の人は怖かった。背中に壁が当たった時に走った悪寒が、今また戻ってくる。

「寒い?」
「…寒くない…怖い…。」
「怖い?」
「…いや…や、…やだった…いやだったもん…!」
「うん。何が?」
「…キス…。」
「キス?」
「っ…は、初めてのキス…が…知らない人…なんて…いや…だもん…うぅ~…。」

 言葉にして初めて、自分が一番それに傷ついていたことを知る。

「うわー!もうやだぁー!やだやだやだぁー!」

 涙が止まらない。身体中の水分がなくなってしまうのではないかというくらい涙が出てくる。
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