10回目のキスの仕方

だけど言えない

「玲菜(レイナ)?」

 圭介を見るやいなや、その『玲菜』と呼ばれた少女は圭介に抱き付いた。その胸の中から顔を上げて美海を見る目つきはやや厳しい。
 
「圭ちゃん遅いよ~!あたし、めちゃくちゃ待ったんだよ?」
「今何時だと思ってる?」
「だぁってーママとケンカしたから出てきちゃったんだもん。」
「行く場所が違う。俺の家はお前の避難場所じゃない。」

 目の前で繰り広げられる光景に、美海は瞬きをするだけで精一杯だ。それに何故か『玲菜』と呼び捨てにしていたことに引っ掛かりを覚えてしまう。そしてチラチラと美海を見る玲菜の目が、段々痛く感じられるようになってきた。

「今日泊めてー!」
「だめ。」
「だってぇ、あたし、圭ちゃんの彼女でしょ?」
「っ…!」

 『圭ちゃんの彼女』という言葉にわかりやすく反応してしまう。そんな美海の反応を一度見て、玲菜は言葉を続ける。

「ね?」
「あ、おいっ!」

 玲菜はぐっと背伸びをして、圭介の胸元を引っ張った。やや体勢を崩した圭介の唇に、玲菜の唇が重なった。

「っ…!」

 見てはいけないものを見てしまった、まさにそんな気分。声にならない声しか出ない。

「ご、ごめんなさい、私!し、失礼します!」

 美海は小さく頭を下げて、アパートの階段を上った。

「松下さん!」

 圭介の声が後ろからした。しかし、後ろを振り返ることなど、当然ながらできない。
 ズキズキと痛い。何がと言われれば心がだと答えることができるが、何故かと問われれば何も言えない。わからない。どうして止まったはずの涙がまた落ちてくるのか。

 生まれて初めて、人がキスをする瞬間を見た。それがこんなにも痛いなんて、美海は初めて知った。
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