僕と、君と、鉄屑と。
契約試験

(1)

 その女は、とてつもなく下品だった。
だから、僕は彼女に声をかけた。女は、すぐに僕の話に乗ってきた。なんの疑いもなしに、僕の車に乗った。
「どこ、行くんだよ」
後部座席から、タバコの煙が流れてきた。僕はその質問を無視して、この下品な女から一秒でも早く解放されたいと、そればかり考えていた。

「こちらで、お待ちください」
応接室の革張りのソファに座った女は、安物の香水を部屋に充満させ、テーブルの上のクリスタルのシガーセットを、剥がれかけた赤い爪で触っている。
「ねえ、喉、乾いたんだけどー」
「……コーヒーで、よろしいですか」
「あー、アイスコーヒーねー。シロップ多めでー」
女は、ソファに足を投げ出し、タバコを吸っている。
「かしこまりました」
僕は吐き気を押さえながら部屋を出て、秘書室にアイスコーヒー、シロップ多め、を持ってくるよう内線をかけ、社長室へ向かった。
「お連れしました」
「どんな様子だ」
「金さえ与えておけば、問題ありません」
社長は少し笑って、僕の肩を叩いた。
「さすがだな」
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