僕と、君と、鉄屑と。

(2)

「待て」
社長の顔から、笑みが消えて、視線が鋭く光った。
「気に入った。俺の女になれ」
「冗談じゃないわ!」
「金ならいくらでもやる。俺はお前に何も求めない。ただ、俺の横で、俺にふさわしい女のフリをしておけばいい」
「……ど、どういうこと……」
「それさえ守れば、自由だ。どうだ? もうあんな店でくだらない男の機嫌をとらなくてもいいんだぜ? フェイクファーじゃない、リアルファーのコートも買える。悪い話じゃない」
麗子は、ポリエステル製の、レオパード柄の、下品なコートを握りしめた。
「でも、結婚って……」
「どうせ、このままいっても、ロクな男と結婚しないだろう。それなら、この俺と『契約』したほうが、よほど利口だと思うがな」
「それは……」
「一つ、話しておこう」
社長は、麗子の傷んだ茶髪を優しく撫でた。
「俺はお前のカラダには興味はない。お前自体に、興味はない。他の男とセックスしようが、何しようが、構わない」
「なに……それ……」
そして、乱暴に掴んだ。
「ただ、俺に服従しろ。俺の命令は絶対だ」
社長は、冷たく、まるでその女を、ゴミか何かのように、粗雑に扱った。さて、泣くか、詫びるか、すり寄るか。佐伯麗子は、どうするかな。
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