狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

悠久城の朝Ⅱ


「はぁ…はぁっ…!!」


足も疲れに痛み、喉もからから…しかし、やっとのことで見えてきた学校。

現在時刻8時40分。


「やった…っ!!間に合った!!今回は遅刻じゃないものっ!ノーカウントね!!」


しかし油断大敵。アオイは速度を緩めぬまま全力疾走で校舎の門をくぐっていく。

すると…


「やっべぇっ!!寝坊したぁああっ!!」


聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは…


「シュウ!」


アオイは表情を明るめて、後方から迫るクラスメイトの男子・シュウの名を叫んだ。


「ん?ってアオイ!!お前も寝坊したのかっ!?ったくしょうがねぇやつだなっっ」


運動神経抜群の彼はあっというまにアオイに追いつき、彼女の腕を掴んで速度を上げた。


「わわっ!!待って早い…っきゃぁっ!!」


アオイの全力疾走以上のスピードはただ彼女の足を縺(もつ)れさせ、結局耐えることの出来なかったアオイは前のめりに派手に転んでしまった。


「…ご、ごめんっ!!アオイ大丈夫かっ!?」


「だい…じょうぶ、大丈夫…このくらいなんでもないって!!」


「…ほんとにごめんな…」


その時、キーンコーンカーンコーン…と朝礼が始まる8時45分を知らせる鐘が鳴り響くのだった―――


「げっ!!」


(ち、遅刻だ…あと2回になっちゃった…)


「何だよ…カエルみたいな声だしやがって…ほら、立てるか?」


遅刻くらいで相当なショックを受けているアオイに首を傾げながらシュウは彼女の身を抱き起した。


「い、いいよシュウ…ひとりで立てるからっっ」


「怪我してるだろ?じっとしてろって…」


まるで大人が子供を立ち上がらせるように両脇へと手を差し入れ、軽々とアオイの身を持ち上げたシュウ。
キュリオやカイ以外にそのようなことをされたことがないアオイは…近づく彼の顔に恥ずかしくなり、俯いてしまう。


すると…ゴツンと鈍い音がして―――


「…っいててっ」


「いたた…」


二人が同じ行動をとってしまったため、額をぶつけ合ってしまったのだった。




―――そんな二人の様子を職員室から見下ろしている不機嫌に細められたふたつの瞳。



「やはり…共学に入れるべきではなかったな…」



と謎の人物は静かに呟いた。
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