届屋ぎんかの怪異譚



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銀花と風伯が江戸の町に着いたのは、もう人々の寝静まった夜中だった。



さすがに人目の多い江戸の中まで、風伯の風に乗って入るわけにはいかない。


江戸の町の門から半里(約二キロメートル)ほど離れたところに二人は降り立った。

ここからは歩きだ。



手荷物がほとんどないので、歩きでも半里なら楽なものだ。


銀花が奥州の村で届屋の仕事をこなしている間に、

仕入れておいた薬は風伯が江戸の銀花の家に置いていったのだ。



銀花は届屋のほかに、祖母から引き継いだ小さな薬屋を営んでいる。


銀花自身は届屋を本業だと言い張っているが、届屋の仕事ではたいてい礼金を受け取らないので、

生計はおもに薬屋の仕事で立てている。



薬屋を切盛りするのは銀花一人だ。

薬屋の儲けでは、銀花一人が生きていくには充分だが、奉公を雇う余裕はない。



今夜中に仕入れた薬を整理して、明日も朝早くに起きなければならない。


疲れてはいたが、銀花の歩みは速かった。




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