だめだ、これが恋というのなら
第二章

涙の意味を



『司』


二限の講義が始まるとき、浩二が俺の名を呼んだ。

当たり前のように浩二が俺の分の席を取っててくれた。



『司、昨日はごめんね~。
 あたし達、かなり酔っちゃったみたいで』

麻里がそう謝罪するも、俺は麻里の横にアイツがいないことに気付いた。



『……』


俺は講義室内を見渡す。



『あ、芽衣なら、今日は前で受けるって』


麻里はそう言った。


本当に講義室の端の、一番前に座ってる。


昨日は真後ろにいた奴が、今日は端の方に一人で座ってる。

後ろから、こんな離れた距離、でもこれが俺たちの正式な距離なんだ。




『芽衣、昨日のことで…ちょっと』


麻里の言葉に、俺は首を傾げる。



『昨日、司の家で王様ゲームしたでしょ?
 あの子、あういうゲームが嫌いなのよ。
 それに…お題がお題だったしね…。
 まさかあの子が当たるとは思ってなかったし、あたしも酔ってたから、そのことすっかり忘れちゃってて…』



『そっか…』



『あの子さ、今時にない古風な子なのよ?
 結婚する人としかキスとかは出来ないって言ってて。
 だからきっとファーストキスだったのかも、昨日の司とのキス…』


麻里はそう言って、前を向き、講義の用意をし始めた。



だから、昨日、あんな顔、してたんだな。


今時、古風な子…しかも公開だったしな…



俺は一番端の一番前に座る彼女に視線を向ける。


朝、あんなことがあったっていうのに、教授が来た瞬間、スイッチが入ったかのように、背筋を伸ばした。


あんな真面目な顔をして、あんな風にいつも講義を受けてたんだろうな…




『…謝っておいたほうがいいんじゃね?』


隣の浩二は俺にしか聞こえないボリュームでそう言った。


謝るも何も。


朝も言い合ったばかりだし。



『…このままでいいよ』



“最低”


“だいっきらい”


彼女の言葉が心に繰り返される。




今更、彼女にその言葉たちを訂正してほしいとも思わない。



ちょうどいい、アイツの怒ってること、それが解決したんだから。


このままにしておけばいい。



そうすれば、二度と、アイツの涙を見ることも、“だいっきらい”と言われることもないんだから。




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