聴かせて、天辺の青

◇ 大切にする


海岸を離れて、私たちは駅へと向かっていた。そろそろ帰路につくために。
私たちの足取りは、ここに来た時とは違っていた。私自身も肩に入っていた余計な力が抜けて、ずいぶん軽くなったように感じられる。



全てではないけれど海棠さんのことを知ることができて、分かり合えたことがなによりも嬉しい。そして繋いだ手から伝わる温度が愛おしくて堪らない。



時刻表を見た私たちは顔を見合わせて、笑ってしまった。
帰りの列車は今さっき出発したところ。次の列車の到着までは、まだ三十分以上ある。



「時間確認しておくべきだったなあ……すっかり忘れてたよ」

「私も、全然思いつかなかった」

「ここに来る時は、とりあえず来ることだけしか考えられなかったから」

「私も同じ、電車に乗らなきゃいけない、降りなきゃいけないってことばかり考えてた」



たわいのない会話を交わしながら、海棠さんと並んで歩く。それだけのことが、とても大切で幸せで貴重なことだと思える。



駅の売店でおばちゃんや和田さんたちへのお土産を買って、ホームの待合室へと向かうことにした。



人気のないホームを駆け抜けていく夕風は冷たいけれど優しい。発着案内板を見上げた私の前髪をそよそよと揺らして、まるで冷やかしてるみたいに。

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