マネー・ドール -人生の午後-

(2)

「常務、なんのお話だったんですか?」
お昼休み、隣に座った田山くんが、聞いた。
「別に、最近はどうかとか、聞かれただけ」
田山くんにはホントのこと言いたいけど……聞いちゃったら、彼にも迷惑かけるよね。
「ミーティング、いい感じでやってたじゃん」
「うーん、難しいですね。部長みたいに、うまく、まわせません」
「慣れよ、慣れ」
 そう。慣れ。部長の職について、七年。なんか、慣れてしまってる。
 現場を離れて余計かもしれないけど、毎日毎日同じことで、毎日毎日処理に追われて、なんだか……つまんない。新しいことをする場所なのに、私のやってることは、処理ばっかり。
「部長、最近、雰囲気変わりましたね」
「え? そう?」
「すごく……優しい感じになりました」
田山くんは、そう言って、私の左手を見た。
「指輪、してますね、ずっと」
「……田山くん、あのね……」
「仲直り、したんですか」
田山くん……そう、なんだよね……なんか、どうしよう。なんて言えばいいのか、わかんない。
「よかったですね」
「うん……」
田山くんは優しく笑って、お先です、と席を立った。その後ろ姿は相変わらずクールで、でも、あの夜のこと思い出したら、胸がチクチクする。

 別に、男の人にもてなかったわけじゃない。好きって言ってくれる人もたくさんいたけど、今まで、その人の気持ちなんて考えたこともなかった。どうせ、見た目だけでしょ、エッチしたいだけでしょって、言葉と一緒に送られるプレゼントにしか、興味なくて……傷、つけてしまった人も、たくさんいたんだろうなって、思う。

 誰より、将吾のことは……ちゃんと、謝りたいって、あの夜から、ずっと考えてしまってる。あの夜から、私は、将吾のことを……考えてる。

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